『鎌倉殿の13人』菅田将暉、無邪気さと冷酷さを両立させた狂気 許されざる嘘のおぞましさ
菅田の演技には、義経の無邪気さと無邪気さゆえの狂気を感じる。第8回で義経が初めて登場したとき、彼は忠臣とともに溌剌と鎌倉へ向かう中で、一切動じることなく野武士を射殺した。無邪気さと冷酷さを両立させた菅田の軽やかな演技が、義経の目的のためなら手段を選ばぬ恐ろしさを表す。義円への所業もそうだ。義経の若さと一途さは、平家討伐の鍵になるはずだが、同時に頼朝との溝を深めることにもなるだろう。頼朝から「心を磨いてくれ」と言われ、うなづいた義経だが、彼の対抗心が消えることはない。頼朝と政子(小池栄子)の間に男児が生まれることを願う面々の中で、跡を継がせてもよいと考える頼朝の言葉を聞き入れた義経だけが、冷淡な表情を浮かべていた。
それから伊東祐親(浅野和之)・伊東祐清(竹財輝之助)の死も衝撃的だった。祐親に仕えていた下人・善児(梶原善)によって暗殺された彼らの最期は、直接の描写がないからこそゾッとした。義時(小栗旬)のいう通り、祐親演じる浅野の顔立ちが柔らかくなり、また八重(新垣結衣)に「思うように生きよ」と伝えた優しげな微笑みに、父親としての祐親の姿を見た。浅野が柔和な表情を浮かべたことで、視聴者の誰もが祐親と祐清、八重の新しい暮らしを望んだことだろう。けれど、それは叶わなかった。祐親の「善児ではないか」「生きておったか」の声色と表情に、これまで伊東に仕えてきた善児への労いの気持ちが感じられたからこそ、報われない。頼朝の「許されざる嘘」に、義時が「爺様はもう帰ってはきません!」と強く憤ったことだけが救いだ。
■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK