脚本家・吉田恵里香が『恋せぬふたり』で大切にしたもの 「次の一歩に繋がるドラマに」

脚本・吉田恵里香に『恋せぬふたり』を聞く

高橋一生が「高橋さん」を体現した、あの名セリフに感動

――本作で「メッセージが届いたのでは?」という手応えを感じたシーンはありましたか?

吉田:毎話あるんですけど、なかでも第5話のラストに高橋さんと咲子さんがカニを食べるシーンはお気に入りです。あの場面、脚本家としては良くないト書き(セリフ以外の動作の指示)の書き方をしているんです。たしか「咲子、ポロポロ泣きながら蟹を剥いて食べる。高橋、黙って蟹を食べづらそうに食べている。無言が続くが、ここが彼らの居場所、家族の形なのである」みたいな、小説的な感じで。これは本当に脚本としてはNGな書き方なんですけど、映像を見たときにそれが伝わるように演じてくださった、撮ってくださったなとすごく感動しました。

――言葉にならない独特な空気感が、この作品の大きな魅力でもありますね。

吉田:本当に。第4話のカズくんと高橋さんの対話シーンでも、絶妙な2人の表情にト書き以上の表現を感じました。「ちょっと怒ってる?」とか「あれ今ちょっと心開いたな?」とか。演出もあると思うし、役者さんの演技もあると思うし、それこそ小道具、照明、音楽、衣装、メイク……全部がすごくいいところにいて、みんなで作り上げているなって。毎回「幸せなことだな」と映像を見て思っています。

――第2話であった「こういう時はこういう人間もいる、こういうこともあるという話が終わらないんですかね」というセリフが、現場で高橋一生さんの提案もあって変更されたというお話を聞いたのですが、もともとはどのようなセリフだったのか教えていただけませんか?

吉田:あのシーンは、私自身の“普通”の家庭を押し付ける人への怒りみたいなものが若干含まれていて。細かなニュアンスは忘れてしまったのですが「なんで僕らをそっとしといてくれない人達を納得させなきゃいけないんですか?」みたいなセリフだったと思います。私の意図としては高橋さんがずっとあの空間で耐えて耐えて……心の中にあるちょっと刺々しい部分がポロッと出て、みんながドキッとするみたいなシーンにしたかったんですよね。でも、映像を見たときに、刺々しくしなくても高橋さんの持つパッションと人格みたいなものが伝わるセリフになっていて、高橋一生さんが誠実に本を読み込んでくださっているんだなと感激しました。もちろんセリフを大事にしてほしいと思いながらも、脚本は指示書じゃなくて、旅のしおり的な感じなので。みんなでより良い旅になるように、意見を出し合っていけるのがベストだなって思っているんですよね。なので、あの決断は本当に素晴らしかったと思います。

――高橋一生さんが“高橋さん”を演じているのは偶然ですか?

吉田:実は、高橋さんのキャラクターは最初から高橋一生さんを妄想して書いていたんです(笑)。イメージキャストであり、単純な願望でもあって。なので、ずっと「高橋さん(仮)」という名前でプロットを書いていたところ、そのまま役名になったという。こんなことは一生ないだろうなと思って、もう「ありがとうございます」という感じです。

――咲子を演じられている岸井さんについてはいかがですか?

吉田:もともと咲子は、お化粧も恰好も流行を取り入れている、ちょっと派手ないわゆるモテそうな女の子をと考えていたんです。でも、岸井さんが演じられることで説得力がすごく出たなと。恋愛のことがわかっていないけどとりあえず頷いている、みたいな絶妙な演技が流石だなと思いました。岸井さんのお陰でキャラの方向性も固まり、私自身もっと咲子が好きになりました。何年か前に岸井さんが出演されている作品を拝見して、そのときの深みのある演技に衝撃を受けたんですよね。いつかお仕事をしたいなと思っていたのですが、あれよあれよと売れていかれて(笑)。岸井さんも高橋さん同様、まさかこのタイミングで巡り会えるとは思っていなかったので、すごく贅沢でありがたいなと思っています。

――個人的にはずっと見守っていきたいのですが、いよいよラスト2回となってしまいました。クライマックスに向けて、見どころなど教えていただけますか?

吉田:ありがとうございます。そうですね、今までは自認したタイミングが高橋さんのほうが早いので、どうしても咲子に教えてあげたり、導く側になっていたりしたと思うんですが、そんな高橋さんのいろいろな面が見えてくると思っています。完璧に見える部分が多い高橋さんの人間的な部分が見えてくるのはひとつの見どころかなと。また、この作品の中でいろいろな言葉を定義してきましたが、改めて「家族」とか「恋愛」といった言葉についても見直していく作業をする話になっているのかなと。一度定義を決めたからといって、それが一生正しいものであるとは限らないし、価値観は流動的に変えていっていいものなんだよ、ということを見せられたらいいなと思っています。

――最初のほうに高橋さんが「人は変わっていくものです」とおっしゃっていたのが、リフレインしますね。

吉田:本当にそうです。もちろん、いろいろな意見が出てきてもいいと思っていて。ディスカッションしたり、調べてみたり、次の一歩に繋がるドラマになったら素敵だなと思っています。私個人としても、改めて「またあのふたりのセリフを書きたいな」って思える大事な作品になりました。みなさんにも、ぜひ最後まで楽しんでいたただけたら嬉しいです。

■放送情報
よるドラ『恋せぬふたり』(全8回)
NHK総合にて放送
第7話:3月14日(月)22:45〜23:15
第8話:3月21日(月)22:45〜23:15
出演:岸井ゆきの、高橋一生、濱正悟、小島藤子、菊池亜希子、北香那、アベラヒデノブ、西田尚美、小市慢太郎
作:吉田恵里香
音楽:阿部海太郎
主題歌:CHAI「まるごと」
アロマンティック・アセクシュアル考証:中村健、三宅大二郎、今徳はる香
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:大橋守、上田明子
演出:野口雄大、押田友太、土井祥平
写真提供=NHK

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