『チェリまほ』は“全員が主役”の物語だった 全話を通して描いた、自分次第で世界を変えられること

『チェリまほ』は“全員が主役”の物語だった

 台湾はじめアジア各国でも配信され、アジア全域で話題を呼んでいるドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京ほか/通称:チェリまほ)がクリスマスイブの深夜、遂に最終回を迎えた。

 赤楚衛二演じる、タイトル通り童貞のまま30歳の誕生日を迎えたことにより、「触れた人の心が読める魔法」を手に入れた主人公・安達と、町田啓太演じる、安達のことが大好きな、イケメンで仕事もできる完璧な同期・黒沢の恋を描いたドラマは、誰かの幸せを願う人々全員が主役の物語として幕を閉じた。

 こんなにも不格好で、愛おしい花火があっただろうか。黒沢が、安達との初デートのためにあんなにも入念に準備をしていた、クリスマスイブの花火大会は、2人の関係の悪化に合わせたように、あっけなく中止となった。初デートのメインイベントである花火を2人で楽しむはずだった「アントンビルの屋上」で、互いの思いを告白し合った安達と黒沢は、思わぬ花火を目撃する。それは、安達と黒沢の恋を応援する藤崎(佐藤玲)と、「これを見て誰かがちょっとでも幸せになれるならいい」と笑う六角(草川拓弥)による、手作りの「花火大会」だった。花火を見てうれしそうな顔をする安達と、そんな安達を見つめうれしそうに微笑む黒沢。反対側のビルの屋上にいる、心から楽しそうに花火をする、キラキラした笑顔の藤崎と六角。1つの「花火」を通して、恋をする人たちと、恋ではない人たち、2つの幸せの物語が描かれた。

 このドラマは、思えばいつも2つの物語で構成されていた。まずは、安達と黒沢の恋と、同時進行で描かれた、もう1人の「魔法使い」、安達の幼なじみである作家・柘植(浅香航大)と、プロのダンサーを目指す宅配業者・湊(ゆうたろう)との恋。本来なら住む世界が違う、自分とは正反対の人物に恋した柘植が翻弄されるさまが可愛らしかった。

 柘植は、安達より一足先に「脱・魔法使い」することによって、便利な手段である「魔法」に頼りすぎることの危険性を安達に示唆する。

 最終回前の第11話で描かれた、これまで安達の人生をうまくアシストしていた「魔法」による功罪と、終盤の、「触れるたび相手の心の声が流れ込んでくる」魔法の特性ゆえ、よりリアルにスリリングに描かれる、それなくしては前に進めない行為を前にした安達の葛藤。このドラマは恋愛の深淵を、人の心に寄り添うことによって、これまでにない形で描こうとしたのだった。

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