中川龍太郎監督の変幻自在の演出 『湯あがりスケッチ』は視聴者の心も裸にする
ひかりTVで毎週木曜日に配信されているオリジナルドラマ『湯あがりスケッチ』第5話は、ほろ酔いの夜に、銭湯で語らう恋と夢の話の回である。互いに“朝帰り”の穂波(小川紗良)と、熊谷(森崎ウィン)が、それぞれの帰路で会い、会話する。「私、仮眠してまた行くんで」「僕も仮眠して、バイト行って、そのあと行きます」。どこに?
2人の行先は「銭湯」。穂波が働く、北千住の銭湯「タカラ湯」である。そんな彼らを朝の光が包んでいて、それはまるで、「朝のお風呂みたい」だ。熊谷の言うように、どことなく、穂波自身に似ている。
冒頭は、「夜に予定が入っていると落ち着かなくて、予定が直前にキャンセルになればいい、もしくはドタキャンしたい」とさえ思っている穂波の気持ちを見透かしたように、第1話にも登場した友人の朋花(伊藤万理華)から連絡がくる場面から始まる。「大事! 新しい出会い!」という声から、彼女たちが行く先と、穂波の憂鬱は、なんとなく想像できる。合コンである。そして、彼女の不安は的中し、緊張も相まって、周囲のノリに全くついていけないために、気づいたらレストランのトイレの洗面台の周りに飛び散った水を拭きとって時間稼ぎをすることに。
今回はそんな、うまくいかなかった合コンを「前菜」に例え、押上駅の近く、スカイツリーの見える銭湯「大黒湯」というメインディッシュを堪能する、穂波・朋花・薫子(夏子)たち3人の女子会。さらに、熊谷(森崎ウィン)に恋する劇団の後輩、リコ(中田青渚)が押しかけてきて、熊谷や銭湯の主人・愛之助(村上淳)たちが振り回された末に、「飲み明かそうぜ」となった男たちの様子を描く「タカラ湯」でのいわば「男子会withリコ」の様子が並行して描かれた。
しかし「タカラ湯」はなかなかいい雰囲気である。そして、その居心地の良さを形作っているのは、村上淳演じる銭湯の主人・愛之助に他ならない。若者たちに交じってツッコミを入れたり、時にアシストしたり、冷やかしたり、リコの熊谷に対する「天才なのに、なんでこんなとこで燻ってるんですか」という言葉に「こんなとこでいいよ、ねえ」と大らかに言ったり、まだまだ未熟な夢追い人たちが集う楽しい風景の中心には、いつも愛之助がいて、甲斐甲斐しく世話をしている。
中川龍太郎監督が手掛ける本作は、毎度ガラッと雰囲気を変える。初回は銭湯そのものが主人公と言えるほど、銭湯それ自体の魅力が前面に押し出され、第2話は穂波が偶然銭湯を共にする、安達祐実演じる女性の人生にスポットライトを当てていた。第3話はまるで小津安二郎の映画のような、古き良き日本映画の佇まいの中に、臼田あさ美演じる女性の家族の物語を配置した。第4話は、お仕事ドラマ。室井滋演じるちょっと厄介なお客と穂波とのやりとりを通して、優しく温かいだけでない、「銭湯で働くことのリアル」を描いた。そして第5話、「大黒湯」と「タカラ湯」2つの銭湯で、片や裸の付き合い、片や共に飲み食いし、語らう人々を通して描いたのは、28歳の穂波たち、32歳の熊谷という、悩み多き20代、30代、それぞれのリアルである。