『なん・なんだ』には人生の真実が詰まっている 役者たちの“生々しさ”にも注目
さらにこの映画では、老い、病気、介護などの要素も加わり、もっとも近しい人が年を取り、病気になり、いつかは死んでいくという厳然たる現実も描かれている。夫婦、親子の関係は年齢を重ねるごとに変わるのだから、それに適応して、お互いの認識も変化させるべきなのだが、これもまた難しい仕事だ。
そう、本作の根底に流れているのは、“大事な人、愛する人も他者である”という圧倒的な事実だ。自分が知らないところで、妻(夫)、親(子)がどういう人間なのかは、結局のところよくわからない。相手の思考や行動が理解できず、拒絶したくなることもあるだろうが、“そのときにどんな行動を取り、どんな言葉を伝えるか”こそが家族として人生を共にすることなのだと、この映画は問いかけている。
妻の不倫を知り、狼狽しながらも現実に向き合おうとする三郎役の下元史朗、そして、70代を目前にした女性の諦念や性愛を滲ませる美智子役の烏丸せつこをはじめ、役者たちによる、ドキュメンタリーかと見まがうばかりの生々しい演技も素晴らしい。
それにしても、この家族をつなげてきたものはなんだったんだろう?と、映画を観終わった後、考え込んでしまった。父のいない子、夫のいない母が「愛について考えることで二人は結ばれている」と歌ったのはフォークシンガーの友部正人だが、この映画の夫婦や親子は、そんなきれいな結びつきではなかったはず。惰性なのか、諦めなのか、義理なのか、一体なんなんだ……。
■公開情報
『なん・なんだ』
1月15日(土)新宿K’s cinemaほか全国順次公開
出演:下元史朗、烏丸せつこ、佐野和宏、和田光沙、吉岡睦雄、外波山文明、三島ゆり子
企画・監督:山嵜晋平
プロデューサー:寺脇研
脚本:中野太
音楽:下社敦郎
配給:太秦
(c)なん・なんだ製作運動体
公式サイト:nan-nanda.jp
公式Twitter:@ nan_nanda0115