19歳の広末涼子が受け止めた高倉健の涙 語り継がれる『鉄道員(ぽっぽや)』の名シーン

心揺さぶる『鉄道員(ぽっぽや)』の名シーン

 『東映創立70周年記念 いま観ておきたい絶対名作30』と題して、CSの東映チャンネルでは11月から3カ月連続で毎月10作品の名作を放送している。2022年1月は東映お得意の任侠映画『緋牡丹博徒 花札勝負』(1969年)から、人気コミックの映画化『ビー・バップ・ハイスクール』(1985年)まで幅広い娯楽作がラインナップに並ぶ。『飢餓海峡』(1965年)、『新幹線大爆破』(1975年)など高倉健の出演作が何作か放送されるが、特にお薦めしたいのが『鉄道員(ぽっぽや) 4Kリマスター版』だ。

 『鉄道員(ぽっぽや) 』(1999年)は浅田次郎の同名小説を映画化したものだが、原作自体は短編のため、主人公・佐藤乙松の人物像に厚い肉付けを施し、さらに彼の周囲の人々の細やかなエピソードを配する脚色をもって長編映画に仕立てている。廃線間近な北海道の幌舞(ほろまい)線で、雨の日も雪の日もホームに立ち続けた孤独な老駅長の物語である。大雪の降る中、力強く蒸気機関車D51が走るモノクロ映像で映画は幕を開ける。映像自体はモノクロだが、若き機関士の佐藤乙松(高倉健)が石炭をくべる窯の炎だけが赤く着色されていて一気に作品世界の中へと惹きこまれていく。同僚と共に幌舞線の機関士を長く務めた乙松は、やがて幌舞駅長の任に就くが、そのローカル線は廃線が間近に迫っており乙松自身も定年を迎えようとしていた。

 本作の魅力は、高倉健演じる乙松が生まれたばかりの娘と妻を亡くした上に定年間近と、地に足の着いたリアルな設定の人物像でありつつ、そんな彼に訪れるささやかな奇蹟というファンタジーに物語が集束していくところにある。駅長の乙松以外には誰も駅員がいない終着駅の幌舞駅。彼は生後2カ月の一人娘が病死した日も、最愛の妻が入院先で亡くなった日も、仕事のために駅から離れられず最期を看取れなかった愚直な男だ。ある日の幌舞駅に地元では見覚えのない小さな少女が訪れる。少女が駅に忘れて行った人形を受け取りに、今度は姉が駅にやって来る。乙松は寺の住職の孫娘たちが遠方から遊びに来たと思い込むのだが……。

 60年代に東映が精力的に制作した任侠映画に出演を続けた高倉健だが、やがて東映が実録ヤクザ路線に主軸を移した70年代から、東宝や松竹へと進出して数々の主演作で日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞を獲得する。80年代に保険会社のCMで発した「不器用ですから」というフレーズがそのまま高倉自身のイメージと合致し、自分の心情や愛を上手く伝えられない寡黙で実直な役柄が嵌っていくようになった。その高倉が『動乱』(1980年)以来、19年ぶりに東映作品に出演したのが『鉄道員(ぽっぽや) 』である。監督の降旗康男と撮影の木村大作は本作以外でも『駅 STATION』(1981年)、『居酒屋兆治』(1983年)、『ホタル』(2001年)、『単騎、千里を走る。』(2006年)と、多くの作品で高倉の主演作を撮っている名コンビだ。『鉄道員(ぽっぽや) 』では雪景色の中を走る列車を始め、木村カメラマンの北海道ロケの撮影が見事なので、4Kリマスターを施した東映チャンネルの放送で是非とも確かめていただきたい。

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