映画『99.9』はこれまでにない“劇場版”に エンタメ性と作家性を見事に両立

映画『99.9』はこれまでにない“劇場版”

 いや、“印象”というよりも、まるっきりそうなのである。それを示しているのは、映画ではあり得ないテレビフォーマットのエンドロールでざくっと幕が下ろされる異例の終わり方に他ならない。映画だからと畏まって、特別に大きなことをしようという企みは一切そこにはなく、良くも悪くもテレビドラマ版と同じことを同じテンションのままやってのけて、それをそのまま劇場で上映させる。こんな文字通りの「劇場版」は今まで見たことがない。それでも長尺で見せるという点に関してはかなり入念に意識されているようで、事件パートの精密さはもちろんのこと、過去の登場人物たちがゲスト的に現れるシーンや小ネタ部分の均整もしっかりと保たれており、決してダレることもなく物語が運ぶ。リーガルドラマとしても、『99.9』としても、求められているものを両立させながら作られているのだから驚きだ。

 SP版に登場した、西島秀俊演じる弁護士の南雲が抱えていた秘密に端を発し、15年前にとある田舎町で起きた葡萄酒への毒物混入事件の真相を深山たちが追いかける。ここで描かれる事件を見て、真っ先に連想されるのはもちろん1961年に起きた名張毒ぶどう酒事件だ。農村の公民館で行われた会合で振る舞われた葡萄酒、複数人が命を落とし、死刑確定後に被告は獄中で病死と、いくつかの共通点が見受けられる。そしてこの事件は冤罪の可能性が極めて高い事件として知られており、過去に幾度となく再審請求が出されたものの棄却され続けている。それはまさに、これまで『99.9』が扱ってきたテーマとも明確に合致しており、劇中で物語として与えられる“事実”の果てに待ち受ける苦しさは、体現する演者の表情ひとつによって誰も救われることのない、失われたあまりにも多くのものの重さを如実に物語るのである。

 ふと感じたのは、かつての『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』のように本筋とは逸脱した小ネタ部分を削ぎ落とした再編集版が作られでもしたらかなり良質なリーガル映画になるのではないかということだ。とりわけ深山が閉廷後の法廷で笑福亭鶴瓶演じる裁判官の川上と対峙するシーンは、静けさと緊張感が法廷という特殊な空間の中にじわじわと蔓延する見事な一連であり、何時間でも観ていたくなる名場面であった。ラストでチラリとホワイトボードに覗く「マタいつか」の文字。シリーズを重ねるごとに大きくアップデートされてきたように、より秀逸なリーガルドラマとして次のシーズンがやってくることに期待しておきたい。

■公開情報
『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』
全国公開中
出演:松本潤、香川照之、杉咲花、片桐仁、マギー、馬場園梓、馬場徹、映美くらら、池田貴史、岸井ゆきの、西島秀俊、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、蒔田彩珠、榮倉奈々、木村文乃、青木崇高、高橋克実、石橋蓮司、奥田瑛二、笑福亭鶴瓶、岸部一徳ほか
監督:木村ひさし
企画:瀬戸口克陽
エグゼクティブプロデューサー:平野隆
プロデューサー:東仲恵吾、辻本珠子
配給:松竹
(c)2021「99.9-THE MOVIE」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/999movie/

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