堤幸彦監督が佐藤二朗と語り合う、“ほんとうに撮りたいもの” 50作目を終えての決意

堤幸彦、監督作50本目を終えての決意

北野武、是枝裕和の次は佐藤二朗

――佐藤さんが堤作品で注目されたのはテレビドラマ『ブラック・ジャック』(TBS系)ですよね。

堤:佐藤さんの出ている舞台でひとり6役やったのを見て、なんだこの俳優は、とびっくりして。『ブラック・ジャック』に出てもらって、そのあと、僕の劇団公演にも出てもらいました。出身が名古屋で生まれ育った地域も近かったから波長が合うんですね。

――先ほど、佐藤さんが「誰もが知っている俳優さんではないが濃密で」とおっしゃっていましたが、『ブラック・ジャック』の佐藤さんもそうで、以降、注目されていきましたよね。堤監督は無名有名関係なくその人の本質をとらえて世に出すひとだなと思うのですが。

堤:いや、売れたのは佐藤二朗くらいでしょう。

佐藤:そんなことない、そんなことない。『TRICK トリック』(TBS系)の仲間由紀恵さんや阿部寛さんもすでに有名ではあったけれど、それまでと全く違う魅力を引き出して、セカンドブレイクにつながっていますよね。

堤:ミュージシャンに対しては勘が働くところがあると思うけれど。例えば安藤裕子さんとかね。でも役者のことはわからないですよ。

佐藤:堤さんはちゃんと撮ってくれますよね。『truth』の女性3人も経験していると思うけれど、たいてい、ドラマや映画の端役A、Bみたいな感じの役はいろいろ考えて撮影に臨んでも、自分がしゃべっているとき全部主役のカットみたいなことはよくあることで。仕方がないとはいえ、帰りの電車で泣くというのは今も昔もよく聞く話ですよ。でも堤さんに限らず、おもしろいものを見たいと考える心あるクリエーターはちゃんと撮ってくれますよね。『ブラック・ジャック』は板東英二さんとの3分くらいのシーンで、いまだに伝説のシーンと言われます。堤さんのおかげです。

堤:いえいえ(照)。

佐藤:この話をするといやがりますよね。

堤:そんな経験は誰もがあるわけですからそんなにずっと言い続けてもらわなくていいですよ。

佐藤:あのシーンを見て、今の事務所に呼んでもらったんですよ。「何、そのシンデレラストーリー」と驚かれる話です。

堤:褒めちぎってもしょうがないけどそういう存在感だったんですよ。そこまでご苦労されてきて、そういう人が開花する時期みたいなものがあるんですよ。二朗さんが現場にいるとほんとうに撮影が楽しくて現場が跳ねます。その一方で、自分で脚本を書いて監督する作品は人間のえぐいところをストレートに描いていますよね。

佐藤:僕は今、監督3作目の脚本を書いているんです。実現するかもわからず、誰かに頼まれたわけでもないのですが。それで今回は1、2作とは違うライトなコメディを書こうとしたら、筆が乗らないんですよ。自分が書きたいものは、僕のパブリック・イメージと真逆なのだと気づきました。

堤:なるほどねえ。真面目な話、ヨーロッパ系では北野武さん、是枝裕和さんなどが認知されているじゃないですか。次は佐藤二朗だと思う。

佐藤:ハハハ!

堤:たぶん、この作品は受けないだろうと思いながら、自分の一番闇の部分を映像化したら、次の日本映画の代表になる。そう僕は踏んでいる。ただその時僕は寿命が尽きていないと思うけれど。葬式の弔事は頼みます。

佐藤:それ、ずーっと言ってませんか? 20年前から言ってますよ。

堤:TBSの植田博樹さん(プロデューサー。『ケイゾク』『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』などを手掛けている)と佐藤さんに頼んでいます。

佐藤:佐々木蔵之介にも頼むと言っていましたよ。

堤:言ってた言ってた、だいたいの人には言ってる(笑)。それは冗談として、今回、50作記念の特集上映で『悼む人』や『くちづけ』を上映して、自分で言うのもなんだけれど、いい作品だなと改めて思ったんですよ。上映後の挨拶では、ギャグで「僕が死んだら、追悼上映をこの映画館でこのラインナップでやってくれ」と言いました。

――堤幸彦作品というとギャグとか小ネタが好きな方も多いですが、『悼む人』や『くちづけ』などはテイストが違いますよね。

堤:しっとり系ですね。

佐藤:堤さん、社会派作品もたくさん撮っていますよね。

堤:名前がね、邪魔なんですよ。

佐藤:え? どういうことですか。

堤:いろいろなオファーが来ますけれど、僕の名前で出さないほうがいいんじゃないですか?と申し上げることがあります。作品が大事だから、僕の名前があると賛否両論になりますよって。公開初日にネットのレビューを見て、生きた心地がしなくなって、スマホを切っていなくなることもあるんですよ。☆が2とか1とか見たくないけどつい見ちゃって。いや、俺は商業監督だから、与えられた予算と期日でプロとして仕上げたという矜持もあるわけですが、そんなことはお客さんにしたら関係ないわけですよね。そうやって49本目まで言い訳して生きてきたけれど、この50作目の『truth』は言い訳なんかいらない、これが俺だという作品になりました。51本目から言い訳しないように一生懸命やると。

佐藤:なるほど。

堤:そういう意味では『truth』は一里塚ですよ。これからも賛否両論覚悟のうえで、不謹慎と言われようが自分の興味ある題材を撮り続ける後押しになりました。

――監督が佐藤さん主演で映画を撮って海外にもっていけばいいじゃないですか。

堤:二朗さんの脚本、主演で撮るのはいいかもね。ただ、僕では二朗さんの描く闇というか心のひだは太刀打ちできないですよ。

佐藤:何をおっしゃいますか。

堤:僕が助監督をやりますよ。

佐藤:やりにくいわ、そんな状況(笑)。

■公開情報
『truth 〜姦しき弔いの果て〜』
新宿シネマカリテほか全国順次公開中
出演:広山詞葉、福宮あやの、河野知美
忖度出演:佐藤二朗
監督・原案:堤幸彦
脚本:三浦有為子
企画:畑義久(レディバード)
エグゼクティブプロデューサー:鬼頭理三
プロデューサー:広山詞葉、福宮あやの、河野知美
音楽プロデューサー:茂木英興
音楽:魚返明未
制作協力:オフィスクレッシェンド
配給:ラビットハウス
(c)2021 映画「truth〜姦しき弔いの果て〜」パートナーズ

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