2021年の年間ベスト企画
小野寺系の「2021年 年間ベスト映画TOP10」 いまだ衰えないアメリカ映画変化の流れ
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2021年に日本で公開された(Netflixオリジナルなど配信映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第5回の選者は、映画評論家の小野寺系。(編集部)
1.『The Hand of God』
2.『プロミシング・ヤング・ウーマン』
3.『グリード ファストファッション帝国の真実』
4.『ロード・オブ・カオス』
5.『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
6.『エターナルズ』
7.『17歳の瞳に映る世界』
8.『ラーヤと龍の王国』
9.『すばらしき世界』
10.『ディナー・イン・アメリカ』
ここ数年、とくに#MeToo運動以降は、アメリカ映画がドラスティックに変わっていく流れを目にすることができた。その勢いは、いまだ衰えていない。性別や人種、身体的な特徴や性的指向と、世界的な娯楽大作に、さまざまな俳優がキャスティングされ、自身もアメリカ社会のマイノリティであるクロエ・ジャオ監督によって、今回撮られた『エターナルズ』は、そんなアメリカ映画の変革の一つの象徴として記憶されるものとなるだろう。
2020年に『パラサイト 半地下の家族』、2021年にジャオ監督の『ノマドランド』がアカデミー賞作品賞や監督賞などを獲得したのと同様、これまで大きなチャンスをつかめなかったキャストやスタッフたちに、大きな可能性が生まれている。早くもその恩恵は、『ドライブ・マイ・カー』のアメリカでの快進撃や、日本を含めたアジア系俳優のハリウッド進出の増加など、日本の映画業界にも及んでいる。“向こうからやってきた”ことで、もはやアメリカ映画や、その市場は、手の届かないものではなくなってきているのである。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』と『17歳の瞳に映る世界』は、対照的な作風ながら、女性への抑圧が痛烈に描かれた、ショッキングな二作である。なかでも前者は、陰惨なはずのテーマを、痛快で娯楽性ある内容にしたところが凄まじい。素晴らしいのは、この手の映画が陰鬱だったり退屈だという、「多様性」や「ポリコレ」を嫌悪する観客の偏見を、完全にぶち壊してくれたことだ。むしろ、これまで虐げられてきた存在の戦いが描かれるからこそ、自分のことのように手に汗握り、応援できる。その点では、ジェーン・カンピオン久々の監督作『パワー・オブ・ザ・ドッグ』も同様だ。
2021年は、ディズニーの大作アニメが二本公開されたことでも記録的な年だった。そんな『ラーヤと龍の王国』と『ミラベルと魔法だらけの家』は、ある程度頭打ちとなったと思えていたCGアニメーションの表現に、まだまだ上があることを思い知らされる二作だった。その凄さの理由の一つが、ディズニーが擁するアーティストの質の高さである。CG技術そのもの以外に、アーティストたちの各々のイマジネーションやセンスによってアニメーションがより輝くのである。映像の華やかさや、キャラクターの造形については後者に軍配が上がるが、前者は、ディズニーだからこそ指し示せる、「世界は複雑だ」と詭弁を語る大人の欺瞞を超えた、グローバルで真っ直ぐなテーマが画期的だった。