『アバランチ』が描く反骨心の奥にある願い 駿河太郎演じる藤田はなぜ裏切ったのか?
敗北の感傷に浸ることを許さない『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)第9話。「俺たちは敵にする相手を間違えたんだ」。大山(渡部篤郎)が仕掛けた爆弾テロはアバランチを捕獲するための巧妙な罠だった。テロリストとして指名手配された羽生(綾野剛)たちは、桐島(山中崇)の手引きにより逃走。一方、山守(木村佳乃)と桐島の前には、3年前に死んだはずの藤田(駿河太郎)が姿を見せる。
「俺は大山さんの掲げる目的を達成する」。再会した藤田は極東リサーチに所属し、大山の下でアバランチの動きを監視していた。「全部お前のためにやったことだぞ」と声を荒げる桐島に「すまなかった」と藤田は詫び、「けど、アバランチは失敗した」と続ける。敵として現れたかつての恋人は、アバランチの敗北を知らせる役としては十分すぎるほどだった。すべては大山の思惑通りに進んでおり、アバランチは大山の手のひらの上で踊らされていた。何も知らされずに。
言葉少なに語る藤田。現実を現実として受け入れることができず、山守は嘔吐する。それでも顏のやけどと眼に宿した決意、3年という時間の重みから山守は全てを了解した。なぜ藤田は大山に従うことにしたのか? 主義や思想が恋人の仲さえ裂くという単純なものではなく、そこには何か切実な理由があるはずだ。その理由を問うことにさほどの意味はない。それぞれ背負うものがあり、決して交わらない2人の生き方が、ある時偶然交わっただけなのだと山守は理解した。
正義と悪も突き詰めれば人間に行き当たる。知っていると思っていた人を見知らぬ他人のように感じたことはないだろうか。黒々とした深淵が人と人の間には口を開けており、観念だけで割り切れないものが現実の関係には存在する。藤田が人間性を捨てたわけではないことは、この後の羽生や山守との会話からもわかった。もし藤田が選んだものの正体を知ることができれば、それは大山につながる有力な手がかりになるはずだ。
戦後処理あるいは掃討戦。大道寺(品川徹)が司直の手にかかり、公安が認定したテロリストのアバランチをしかし人々は忘れていなかった。打本(田中要次)の娘さなえ(黒川智花)が語る父は今でもヒーローで、第4話に登場した亜矢(ついひじ杏奈)は自分の代わりに肉親の無念を晴らしたアバランチへの感謝を口にする。アバランチを追い続けてきた毎朝ジャーナルの遠山(田島亮)は彼らの本質を見抜いていた。メンバーの気づいていないところで事態は着実に動いていた。