井浦新が『最愛』撮影後に伝えるつもりだった本音 加瀬が持つ“最愛”の形とは?
“梨央と加瀬”に重なる吉高由里子との関係性
――松下さんからも本作を通じて「井浦さんと仲良くなれた」という話がありましたが、井浦さんから見た松下さんの印象について聞かせてください。
井浦:本当は何かを介してじゃなく、終わったら本人に直接伝えたいと思っていたことでもあるんですが、まぁ、いいかな……。洸平くんとははじめましてのスタートで、“初共演”というのは1回限りのご縁ですし、しかも大輝と加瀬という対峙する間柄でもあったので、本当に大切にしていきたいと思っていました。正直、この作品で1番強く思い入れのあった人かもしれません。第5話までは何かとバチバチするシーンがあったので、僕は「バチバチしちゃっていいやつですよね?」って前のめりで、どんな形の火花の散らし方ができるのかを考えていたんですけど、洸平くんはそれを一つひとつ丁寧に応えてくれて嬉しかったです。
――共演されて感じた、松下さんの演技の魅力はどんなところでしょうか?
井浦:僕が読んできた大輝のセリフと、洸平くんの読み方というか呼吸が全然違うんですよ。台本を読みながら「きっとこうくるだろうな」と想定して準備やイメージを膨らませていくんですけど、本番になるとそのどれにも当てはまらないものを出てくる。僕自身、決まりきっていない反射的な芝居が1番楽しいと思っているので、そこがすごく面白かった。きっと洸平くんの体の中に流れているリズムが独特なんですよね。「え、ここで息を止めて、ここで吐き出す?」とか「このセリフいいながらそんなふうに体を動かす?」みたいな感じで。僕としてはいい意味で狂わされて、そこから加瀬のリズムに持っていくためにも自分の中のエンジンがどんどん回転するのがわかって、本当に楽しかった。
――では、梨央と加瀬という間柄を演じられた吉高さんについてはいかがでしょうか?
井浦:吉高さんに関してはみんな「天才だ」って言うんですよね。でも、僕は彼女のことを簡単に「天才」という一言でくくれるタイプじゃないと思っていて、それを形容する言葉が他にないからそう言わざるを得ないんだろうけど。僕が見てきた彼女は、すごく不器用でなんでもかんでも上手くやってのけられるタイプじゃないと思っているんです。だからこそ、とてつもない努力をしてきただろうし、その積み重ねでキャリアを築いてきたのだろうと。それでも彼女のお芝居が自然に見えてしまうのは、自然なお芝居をしているんじゃなくて、どんなときも肩の力を抜いて、役と自分を同化させることができるタイプの女優さんだからじゃないかなって。その場に流れているものを、彼女自身の体の中を流れるリズムを同調させて最大限に活かすことにすごく長けた人なんだろうなと見ています。
――なるほど。
井浦:そう思うのも最初に共演させてもらった当時、彼女は19歳で、僕もまだ31〜2歳のころだったからかもしれないですね。役者としても人間としても、お互いとても未熟な時期で。そこから10数年経って「お互いまだまだ未熟者だね」なんて会話はしていないですけど、そうした気恥ずかしさが彼女に対してはあるんです。そういう背景が、梨央と加瀬にも当てはめられて、彼女のことは自然に見つめていられるし、お互いに力を抜いた状態で向き合っていられる。僕にとって吉高さんは稀有な存在だなと思います。
――吉高さんと知り合って10数年という月日を思うと、梨央と加瀬の描かれていなかった15年間も自然と思い浮かびますね。
井浦:梨央と加瀬の間柄を芝居のみで作ることも正直簡単ではありますけど、そうではない作り方ができるというのは楽しみな部分ではありました。もともとの関係性や背景、気恥ずかしさなんていうものを織り交ぜながら作れる相手は、なかなかいないので。吉高さんに対して「ありがたい」なんて思ったことないんですけど(笑)、感謝しかないですね。当時なんでもなかった僕ら2人が、久しぶりにご一緒することによって、彼女が“吉高由里子”として背負ってきたもの、積んできたキャリアを感じることが大きかったです。僕の中で、彼女への敬意というものが自分の中でもびっくりするくらい広がっていることを感じています……って、終わってからサッと言って帰ろうかなと思っていたんですけど、ここで話してしまいました(笑)。
――では、残すところ9話、10話となりました。最後に視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。
井浦:第8話の最後で、加瀬にもまさかの犯人フラグが立ってしまったんですけど、そう簡単に犯人になってたまるかという思いが僕自身あります(笑)。加瀬と同時に、梓社長も怪しくなっていますし、大輝の同級生だった藤井(岡山天音)というのが、まあいい面構えで! 自ら犯人に立候補してるような雰囲気を醸し出していますよね。ただ、僕の中では「大ちゃん犯人説」もみなさんに忘れないでほしいなと思っていたり……。でも、犯人探しもこの物語を楽しむ要素の1つではありますが、やはり最大の醍醐味はそれを凌駕する、それぞれの最愛のぶつかり合いなので。第8話まで積み重ねてきた各自の愛が第9話、第10話で、ぶつかったり、混ざったり、開いたり、なかには閉じていく人もいるかもしれません。ここからさらに加速していく人物たちの最愛の物語を、犯人探し以上に楽しんでいただけたらと思います。
■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS