『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』は腐敗した大人社会と生徒の訣別を描く重要作

『不死鳥の騎士団』にみる、子供たちの独立

 ホグワーツの教師陣も、魔法省には逆らえない。彼女の勝手でクビにされたトレローニー先生をマクゴナガル先生が毅然として庇うシーンがあるが、彼女に決定を覆す力はない。先生たちも、政府の人間の前ではただ子供たちが不当な体罰を受けているのを黙認するほかないのである。そしてその魔法省自体、死喰い人が役人を務めているような正義が腐敗した機関であり、ダンブルドアでさえ表面上彼らに従わざるを得ない。だから彼はアンブリッジのことも受け入れなければいけなかったのだ。

 何より、ダンブルドア自身本作ではハリーを何度も庇うものの素っ気ないし、放置気味でどんどん距離をとるようになる。しかし、それもまた本意ではなく、ヴォルデモートと精神的に繋がっているハリーの側にいることが危険だったからだ。だからこそ、スネイプに閉心術の訓練を命じている。つまりあのダンブルドアですら、本作では“助けたいけど助けられない大人”なのである。

 こうして、守ってくれる大人がいない世界のなかで、少年少女たちは自らを守りあう軍団を形成した。その中で、ハリーという青年が“教師”となり、本来の大人たちに変わって防衛術などの魔法を教えて皆を導いていく。「ダンブルドア軍団」とは、単なるアンチ・アンブリッジ集団ではなく、これまでのシリーズで彼らが掻い潜ってきた、腐敗した大人たちの社会に対するレジスタンスなのである。

 皮肉なことに、生徒たちは仮に無事ホグワーツを卒業しても、魔法省に入ることがエリートとされているため、自ら腐敗した機関の一部になるしかない。そうやって彼らも“助けたいけど助けられない大人”になるしかないような未来が、確かにそこにあった。もちろん、「不死鳥の騎士団」のような良識な大人たちはいるが、本作で命を落としたシリウス・ブラックは冤罪で逃亡生活を余儀なくされていたし、彼ら自体があくまで少数派であることがわかる。「もう大人を頼りにしない」と、自分たちの力でどうにかしなきゃいけなかった生徒たち。その意思と役割は、『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2』でのホグワーツ決戦にも反映されている。

 そしてヴォルデモートを倒した子供たちが、大人になった後に腐ったみかんのバーゲンセールだった魔法省をリセットしようとする筋書きにカタルシスを感じる。まずは「不死鳥の騎士団」の一員であった黒人の闇祓い、キングズリー・シャックボルトが魔法大臣に就任し、ハリーは魔法省の闇祓い局の局長に史上最年少で就任。ロンもハリーと同じ、魔法省の闇祓いになった。なにより、ハーマイオニーは魔法省に入省後、屋敷しもべなど蔑まされてきた魔法生物の地位向上、さらに純潔支持法、つまりレイシスト撲滅に力を注いだあと魔法大臣に就任している。そしてネビルはホグワーツに戻り、薬草学教授として教鞭をとった。ハリーもときどき、「闇の魔術に対する防衛術」の先生として顔を出しているらしい。

 大人たちの負の連鎖を食い止める、そんな生徒たちの意志が生まれた『不死鳥の騎士団』は前後の展開を考えると、なんとも感慨深い作品である。

■放送情報
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
日本テレビ系にて、12月3日(金)21:00~23:24放送(※放送枠30分拡大)
原作:J・K・ローリング
監督:デイビッド・イェーツ
脚本:マイケル・ゴールデンバーグ
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、ヘレナ・ボナム=カーター、レイフ・ファインズ、マイケル・ガンボン、ゲイリー・オールドマン、アラン・リックマン、イメルダ・スタウントン
TM & (c)2007 Warner Bros. Ent. , Harry Potter Publishing Rights (c)J.K.R.

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