『最愛』に奥行きをもたらす宇多田ヒカル「君に夢中」 新井P×塚原D作品の主題歌力
15年前と現在の連続殺人事件をめぐり、次々と謎や人間模様が浮き彫りになる一方、新たな事件が起きるというスピーディな展開に目が離せない『最愛』(TBS系)。
ここまで観ていると、『最愛』というタイトル通り、登場人物にはそれぞれ最愛の対象があることがわかる。主人公の梨央(吉高由里子)にも、大輝(松下洸平)にも、加瀬(井浦新)にも、弟の優(高橋文哉)にも、他のいずれにもその対象がある。そしてその相手のために奔走し、時には自らを滅ぼすような行為をとってしまうくらい、このドラマに登場する人たちは情に溢れている。弟思いの梨央も、刑事の立場がありながら梨央と優への気持ちがあふれすぎる大輝も、自分を愛してくれる姉を何度も守ろうとする優も。
そんなドラマの世界観と、宇多田ヒカルの歌う主題歌「君に夢中」の<君に夢中 人生狂わすタイプ>という詞は、見事にシンクロしている。切ないスパイスの効いたイントロ部分に響く、儚いピアノの高い音色と、宇多田の艶っぽいハミング。物語の盛り上がる部分で主題歌「君が夢中」が流れるだけで、そのシーンは数倍ドラマチックになる。
印象深いイントロの“入り”。挿入されるのは、決まって“登場人物の最愛関係が象徴的に現れる瞬間”だ。
例えば、梨央と大輝。第2話のラスト、久しぶりに2人きりで再会するシーンで、怪しい車につけられる梨央の腕を大輝が強く引っ張り守る瞬間、「君に夢中」が流れる。第3話では、「刑事」と「重要参考人」という関係性がありながらも、梨央が「友達として話せたらいいのに」と静かに嘆く2人のシーンが、主題歌の挿入部分だった。
過去の事件によるすれ違いで離れてしまったが、かつては想い合っていた2人。時を経て再会し、新たな関係性で触れ合う。しかし、今では一方が抱きしめても抱きしめ返せない。一方が追いかけても引き返せない。相互的に愛をぶつけ合えないもどかしさを、ピアノの音色が募らせる。
ほかにも主題歌が流れるのは、梨央と優の再会シーン(第4話)や、梨央と優の亡き父・達雄(光石研)がビデオメッセージで、「自分が渡辺康介を殺して埋めた」と話すシーン(第5話)など。誰かが誰かを愛する想いが光る瞬間に、「君に夢中」はぴったりだ。