深作健太×愛原実花、偉大な父親を持つ2人が心の内を語り合う “生き恥”を晒すという信念

偉大な親を持つ2人、深作健太×愛原実花

映画も舞台も生き恥を晒すことである

深作:父に連れられてつかさんにもお会いしたことがあります。親父が「こいつ演劇ばっかり観ているんだよ。つかさんのファンで」なんて話をしてくれて。つかさんに「好きなことやりなさい。映画も演劇もどっちにしろ無責任な仕事なんだから」と言われました。親父はつかさんに「お互い、生き恥晒していると思いませんか?」と訊かれたことがあるそうです。

愛原:「生き恥」とはかなりのパワーワードでハッとしますね。

深作:つかさんの言う「生き恥」とは瞬間の恥を重ねることで、その瞬間を大切にしていることではないかと感じます。

愛原:何を恥と思うかは父には重要なことだったと思います。何を恥と考え、どんなふうに生きてほしいか強い信念を持っていたように感じます。

深作:つかさんはたぶん“いい恥”と“悪い恥”を知っていて、舞台上で俳優たちに“いい恥”をかかせていたんでしょうね。それはつかさんだけしかできない演出法だと思います。

愛原:ほんとにそう思います。

深作:つかさんはみな子さんの出演作を見ていらっしゃるんですか?

愛原:初舞台公演は見に来てくれていました。いま考えると、宝塚の演出家の先生への礼節だったのだと思いますが、助言はいっさいなかったです。健太さんはお父さんから何か助言をもらいました?

深作:僕の場合、親父が急逝してその代わりに監督デビューした形(『バトル・ロワイアルII鎮魂歌』を深作欣二がパート1から引き続いて監督する予定だったが志半ばで亡くなった)だったので、僕単独で作った作品を見てもらえなかったんです。逆に言うとそれでよかったという思いがあります(笑)。

愛原:仕事の話はしませんでしたが、宝塚市で一人暮らししていた時、父が来てくれたので、手料理を作ったら、砂肝とアスパラをただ炒めたビールに合うようなおつまみ程度のものに、すっごく感動してくれて。「砂肝好きってなんで知ってるの?」なんて言われたことは覚えています(笑)。別の日は、母と一緒におにぎりを握って父に持たせたら、それもすごく喜んでくれたなんてこともありました。

深作:子供の時はどんなふうに遊んでくれました?

愛原:遊ぶというか、自転車の練習をしてくれたり勉強教えてくれたりしました。

深作:うちは戦中生まれだから、竹刀を庭で持たされて、剣道教えてくれました。いきなりぱーん!って頭叩かれて、すっげえ腹立ってなにすんだこの野郎と思ったら、その後『魔界転生』(1981年)で千葉真一さん演じる柳生十兵衛が父の柳生宗矩(若山富三郎)に剣の稽古をつけられる場面があり、あれは取材だったのだと気づきました(笑)。その時は日常を映画に利用して……と思ったけれど、生まれ変わって息子と戦いたいとまで思う父子の壮絶な関係性の物語を見ると父にもそんな想いがあったのかなと感じたりもします。

愛原:同じ男として対等に……という感覚があったのかもしれませんね。

深作:つかさんも親父もふたりとも家ではふつうの人で、仕事というスイッチが入ると“つかこうへい”になったり“深作欣二”になったりする。そして僕らはその父親に知らぬまに影響受けて同じ道を歩んでいる。子供でも親と全く違う道を行く人もいますが、僕らは父親の楽しさも厳しさも教わった気がしますね。

愛原:はい。ほんとに楽しさも厳しさも受け取りました。

深作:今年、つかさんの『熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~』を演じられましたよね。その時、お父さんの書いたセリフの意味を誰よりもわかる気がしませんでしたか?

愛原:すごくありました。子供の頃、こわいと感じていた、傷に塩を塗り込むような、ナイフのような言葉が自分でも怖いくらいするすると心に入ってきて、相手を殺せるくらいの強い力のある言葉をすらすらと言えてしまう。DNAの成せるわざなんでしょうか。

深作:人を殺す言葉であると同時に深い愛のある言葉ですよね。それを肌感覚で否応なく受け継いでいる。いや、受け継がざるを得ないものですよね。

愛原:はい。とはいえ、私が父の意思を伝えていくというような強い考え方は持たず、あくまでも柔らかくいようかなと思っています。父の想いに応えるとしたら、自分が今、幸せに生きさせてもらっていることだけでいいのかなって。

■深作健太
1972年東京都生まれ。2003年『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』で映画監督デビュー。2010年舞台「罠」以降は演出家として演劇やオペラを手掛けている。

■愛原実花
1985年東京都生まれ。宝塚歌劇団雪組でトップ娘役として活躍、2010年退団。11年から舞台やテレビドラマ、映画で活動している。

■公演情報
『ドン・カルロス』
東京公演:
日程:2021年11月17日(水)〜2021年11月23日(火祝)
会場:紀伊國屋ホール

京都公演:
日程:2021年11月26日(金)〜2021年11月28日(日)
会場:京都劇場

作:フリードリヒ・シラー
翻訳:大川珠季
演出:深作健太
出演:北川拓実(少年忍者/ジャニーズ Jr.)、愛原実花、七味まゆ味、小田龍哉、宮地大介、神農直隆

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