エミー賞3冠『メア・オブ・イーストタウン』と、韓国の傑作ドラマ『怪物』の関係とは

『メア・オブ~』と韓国ドラマ『怪物』の関係

 実を言うと、『メア・オブ・イーストタウン』は、今年の韓国ドラマでも異色かつ記憶に残る作品『怪物』を想起させた。今年2月から4月までJTBCで放送され、韓国エンタメ界の最高賞と言われる第57回百想芸術大賞でテレビドラマ部門作品賞、男性最優秀演技賞、脚本賞の3冠を受賞している。日本ではKNTVで放映されたが、アメリカではNetflixでも配信されている。

 舞台は、京畿道のムンジュ市の小さな町マニャン。小さな町の派出所にソウルから異動してきたエリート刑事ジュウォン(ヨ・ジング)は、つかみどころのない警察官ドンシク(シン・ハギュン)とコンビを組み、この小さな町で起きた猟奇殺人事件を追う。マニャンでは20年前にも類似する殺人事件が起き、ドンシクの妹が犠牲になっていた。

 町中の人がほぼ知り合いで、町のごたごたを処理することが仕事の派出所。そこで働くドンシクもメア同様、町の全てを知りながら殺人事件の真犯人を探すという複雑な任務に就いている。さらに事態を複雑にするのは、ドンシク自身も20年前に容疑者として拘束された過去があり、殺人事件の被害者はどちらも彼にとても近しい人物だということ。小さな町の密度の濃い人間関係と、猟奇殺人事件によって人々が隠してきた過去や感情が白日の元にさらされる緊迫感のあるサスペンスは、『メア・オブ・イーストタウン』同様に複雑な観賞後感を残す。ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(2003年)のような、常に薄暗く閉塞感を醸す演出は、まだドラマシリーズ演出2作目の女性監督シム・ナヨンが手がけたという。百想芸術大賞で男性最優秀演技賞を受賞したシン・ハギュンの鬼気迫る演技は、彼自身が怪物なのか、それとも怪物のような殺人鬼を追うために怪物と化したのか、エピソードが進むごとに視聴者を混乱させる。優れた脚本と演出、そして怪演の三位一体によって作られた、まごうことなき傑作サスペンスだ。

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 本国で『メア・オブ・イーストタウン』と『怪物』の放映が終了したあとに流れたニュースによって、2本のドラマにつながりがあることが判明した。今年6月、『怪物』を製作した韓国のJTBCスタジオは、『メア・オブ・イーストタウン』、『ディキンソン』(Apple TV+)の製作会社Wiipの過半数の株式を取得し買収合意に至ったと発表(*1)。この買収劇には2019年に全米脚本家協会(WGA)とハリウッドのエージェント企業が大揉めしたことに関係している。複雑なので詳細は省くが、エージェント企業はタレントやクリエイターの代理人としてエージェントフィー(通常10%)を徴収しながら、スタジオや配信事業者に企画を売る際にパッケージフィー(手数料や利益配分)を請求する商慣習を続けてきた。この利益相反を改革するため、ハリウッド4大エージェント(WME、CAA、UTA、ICM) とWGAの間で行動規範への署名が行われた(*2)。行動規範には、エージェントは製作会社の株式を20%までしか所有できず、系列化の禁止が含まれている。BBCアメリカを立ち上げたプロデューサーが設立したWiipは、ハリウッド4大エージェントの一つであるCAAが株式の大半を保有する系列製作会社だったが、この合意により株式売却が行われた。兼ねてからハリウッドへの足がかりを探していたJTBCスタジオは、Wiipの株の過半数を取得し海外子会社化することに成功したのだ。なお、JTBCスタジオは今後Wiipとともにアメリカおよび韓国のIPを使った製作を行い、アジアや日本へも進出すると発表している。

  つまり、『メア・オブ・イーストタウン』も『怪物』も、同会社が保有するIPということになる。JTBCスタジオは『梨泰院クラス』や『夫婦の世界』(BBCのドラマのリメイク)、『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』、『わかっていても』などを製作、ディズニープラスで世界配信予定のチョン・ヘインとBLACKPINKのジスの共演作『Snowdrop(英題)』などを控えている。一方のWiipは、METAと社名を変更したばかりのFacebookのシェリル・サンドバーグCOOをクレア・フォイが演じる『Doomsday Machine(原題)』の制作を発表。Wiip代表でプロデューサーのポール・リー氏は、「JTBCスタジオとはすでに一緒にやってきているので、流れはスムーズでした。これから2社は多くのコラボレーションを共同で行います。我々は彼らのIP開発の手助けをし、彼らも同様にWiipの成長を助けてくれるでしょう。何より、JTBCスタジオは成長に貪欲です」と語っている。ちなみに、JTBCスタジオのライバル、スタジオ・ドラゴン(Netflix『愛の不時着』『ヴィンチェンツォ 』)はスカイダンス・メディア(Apple TV+『ファウンデーション』、Amazon Prime Video『ジャック・ライアン』など)と提携し、Apple TV+向けの英語作品の制作を始めている。

 優れたコンテンツは軽々と国境を越えることがより顕著になった2021年。そんな年を代表するような2本のドラマを作った多国籍製作会社の今後に期待したい。

*1:https://www.jtbcstudios.com/news/report/410
*2:https://www.wga.org/members/membership-information/agency-agreement/wga-agency-campaign-timeline

■配信情報
『メア・オブ・イーストタウン / ある殺人事件の真実』
U-NEXTにて見放題で独占配信中
(c)2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

『怪物』
(c)JTBC Studios Co., Ltd. all rights reserved.
写真はJTBCホームページより

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