小野花梨×見上愛、『プリテンダーズ』独自の現場で広がった世界　正反対の2人が語り合う

小野花梨×見上愛は「全部正反対」

ーー本作の撮影を通して新しく得た経験はありますか？

小野：いろんな俳優の方がいらっしゃると思うんですが、私は今まで、作品は監督のものであるという前提でやってきたんです。監督の指示通りにできないなら、それはまだプロじゃない証拠だとすら思っていて。でも今回は熊坂監督が、いろんなことを話してほしいと言ってくださって。熊坂監督、スタッフの方々への100％の信頼があった上で、熊坂監督にNOが言える環境だったんです。そういう経験をさせてもらったのは初めてだから、自分の視野が広がるきっかけになりました。

見上：私は、映画にここまで長期間関わることが当時は初めてで、普通の作り方を知らなかった立場なんです。だから、今になってすごく贅沢な時間だったんだなと気づきました。あと、脚本自体が自分にはない考え方ばかりで、脚本を通して、こうやって苦しんでいる人がいるんだ、自分もこうやって苦しめている社会の一部の側の人間なのかもしれないと思って、それは公私問わずすごく大事なことに気づけた気がします。

ーー小野さんと見上さんは本作が初共演になります。

見上：ちょっと話がずれてしまうかもしれないんですが、撮影から1年後に『きれいのくに』（NHK総合）で共演させていただいたときに、全く演技の仕方が違って、「あれ、花梨ちゃん!?」みたいな驚きがありました。でも、撮影以外の時間の印象は何も変わっていなくて、「やっぱり好きだなあ」と（笑）。

小野：なるほど。私も愛ちゃんの印象はずっと変わらないかもしれないです。多分、私も愛ちゃんも、本当の自分と他の人に対する自分が相違がないので、ずっとこのままという気がします。初対面のときも、『きれいのくに』のときも、多分この先もこんな感じだと思います（笑）。

見上：そうだね。

ーーお互い役者として刺激を受ける場面も多いですか？

小野：愛ちゃんとはタイプが全部正反対なんですよ。

見上：本当にそう（笑）。

小野：ひとつの事象があったときの感想が真逆になるくらい。それでいうと、全てが羨ましいし、新鮮です。

見上：花梨ちゃんが持っていて、私が持っていない要素は多分一生手に入れられることができないから、もちろん妬ましく思うこともないですね。

ーーその違いとは？

小野：なんて言うんだろう……愛ちゃんは、“液体”みたいな感じというか（笑）。どんな物が来ても柔軟に受け入れられるんです。私は、良くも悪くも毎回すごくリアクションしてしまう。だから、愛ちゃんはめちゃくちゃ強いんですよ。器も大きいし、あまり周囲から感情を揺り動かされない。「自己肯定感が高い」と熊坂監督も愛ちゃんのことを表現していました。

見上：それでいうと、花梨ちゃんは全部をちゃんと受け止めるし、思考した上で何かを返したり、「無理なものは無理」「好きなものは好き」とはっきり答えを出すんです。とりあえず受け取るもの全てを、漏れなくキャッチする。それって人としてもすごく素敵だなと思うし、役者としてもその能力は大事だと思うんです。どの演技も花梨ちゃんだからこそ生まれてくる表現なんですよ。

小野：良いも悪いも表裏一体だとは思うんですが。本作でも花田花梨と自分が似すぎていてすごくしんどくなることもありました。「もういいんだよ」「流しちゃいなよ」と言われてもそれができなくて、みんなを苦しませちゃったり、自分も苦しくなっちゃったりすることもあるから、難しいですね。

ーー最後に観客の方々にメッセージを。

見上：花梨の目線で観る人もいるだろうし、風子の目線や、お父さんや寛治（古舘寛治）さんの目線で観る人もいると思うので、「こういうふうに観てください！」とは言えないんですが、いま何かに苦しんでいる人にはもちろん観てほしいですし、そんなに今が生きづらいと思っていないというような人にこそ観てほしいという気持ちもあります。そういう人たちが本作を観て、周りに生きづらさを抱えている人たちがいること、自分がその生きづらさを作ってるかもしれないということに気づいたときに得るものがあると思うし、自分自身もそうでした。

小野：自分は花田花梨の気持ちがすごくわかるんです。ああいう状態になっているときって、孤独なんですよね。社会も敵、親も敵、友達も敵、親友だったはずの風子も敵に見える。視野が狭くなっていて全てが怖くなって孤独を感じてしまうんです。私もそういう時期があったから、この作品が孤独を感じているのは私だけじゃないと思えるヒントになってくれたら嬉しいです。

■公開情報
『プリテンダーズ』
渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開中
監督・脚本・編集：熊坂出
出演：小野花梨、見上愛、古舘寛治、奥野瑛太、吉村界人、柳ゆり菜、佐藤玲、加藤諒、浅香航大、村上虹郎、津田寛治、渡辺哲、銀粉蝶ほか
制作プロダクション：テレビマンユニオン
配給・宣伝：gaie
配給協力：Mou Pro.
(c)2021「プリテンダーズ」製作委員会
公式サイト: pretenders-film.jp
公式Twitter：＠pretenders_film