アレック・ボールドウィン撮影事故の続報と詳細 ブランドン・リーのケースとの違いは?
アメリカ現地時間10月21日、アレック・ボールドウィンが主演とプロデューサーを務める映画『Rust(原題)』の撮影現場で、悲劇的な事故が起こった。ボールドウィンが小道具の銃を誤射し、撮影監督のハリナ・ハッチンスが死亡、監督兼脚本のジョエル・ソウザも肩を負傷したのだ。本件は現在、撮影が行われていたニューメキシコ州サンタフェ郡保安官事務所が捜査を続けている。今回は、すでに判明している事故の経緯や関係者のコメント、そして1993年に同じく撮影現場で小道具の銃の誤射により死亡した、ブランドン・リーのケースとの違いを見ていきたい。
事故の詳細と今後の見通し
今回の事故については、まだ地元保安官事務所が捜査中であることもあり、不明な点も多いが、少しずつその詳細が明らかになってきている。サンタフェ近郊にあるボナンザ・クリーク牧場で撮影されていた『Rust』のリハーサル中、主演のボールドウィンが誤って小道具の銃を発砲し、ハッチンスが胸に被弾。その後、弾丸はソウザの肩に当たった。ハッチンスはヘリコプターで地元の大学病院に救急搬送されたが、まもなく死亡。ソウザは病院で緊急治療を受けたあと、翌日に退院した。撮影再開の目処は立っていない。
宣誓供述書によれば、ソウザは事故当時ボールドウィンが教会のセットのベンチに座って、銃を持つ手と反対側のホルスターから銃を抜く練習をしていたと証言している。彼が持っていた銃は撮影用の小道具で、助監督が運んできた3丁のうちの1つを使用していた。銃を渡した助監督は、弾丸が入っていたとは知らなかったという。そんな中、米Varietyは、事故で使われた銃には“実弾が1発”入っていたと報じている。地元捜査局は当初、銃に装填されていたのがどんな種類のものだったのか、空包だったのかダミー弾だったのかなど、じっくりと検証する必要があるとしていたが、現在は実弾だった可能性も含めて捜査を進めているようだ。
実はこの現場、低予算で撮影期間も短く、クルーは過酷な労働環境の改善を訴えていた。彼らはもともと、撮影現場からほど近いサンタフェの宿泊施設を約束されていたにもかかわらず、いざ撮影がはじまると現場から80kmも離れたアルバカーキの施設に移らなければならなかったという。毎日12時間にもおよぶ長時間の撮影をこなし、宿泊施設まで1時間ほど運転して行き来するのは、安全上の理由から不安の声があがっていた。被害者となったハッチンスも、そうした面での改善を訴えていた1人だ。しかし製作側は費用を抑えるためか、映画産業を裏方として支える人々の労働組合IATSE(国際舞台演劇・映画従事者同盟)に所属するクルーの半数を解雇し、非組合員を雇った。解雇されたクルーが現場を去った6時間後に、悲劇は起こったのだ。
先述の銃の小道具を運んできた助監督デヴィッド・ホールズはかねてからあまり良い評判は聞かれなかった人物らしく、武器管理担当者もキャリアをスタートさせたばかりの新人だったようだ。さらに、Deadline誌はデヴィッド・ホールズが以前、武器の誤射事故に関わって映画製作の現場から解雇されたことがあると報道した。その現場とは映画『Freedom's Path(原題)』で、作品のプロデューサーが「確かに、ホールズは『Freedom's Path』の現場を小道具の銃から実弾が発砲されたという予想外の出来事の後に、ただちに解雇されています」と、同誌に証言している。ただ、本件はまだ捜査中であり、ここでは個人の責任を追求することは避けたい。ハリウッドには銃をはじめとする武器の取り扱いについて明確なルールがあり、責任者はもちろん誰もがそのルールを厳守する必要がある。
いまのところ今回の事故で逮捕者は出ておらず、過失致死事件として起訴されることになるのかもわからない。しかし現場で銃の取り扱いに関するルールが守られていなかったことが証明されれば、少なくとも民事訴訟に発展する可能性がある。製作側を相手にした訴訟となれば、プロデューサーに名を連ねているボールドウィンも被告になる可能性は大きい。
また、渦中の人物であるアレック・ボールドウィンは10月23日にTwitterにて以下のようにコメントを発表した。
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There are no words to convey my shock and sadness regarding the tragic accident that took the life of Halyna Hutchins, a wife, mother and deeply admired colleague of ours. I'm fully cooperating with the police investigation to address how this tragedy occurred and— AlecBaldwin(HABF) (@AlecBaldwin) October 22, 2021
「妻であり、母であり、私たちの同僚であったハリナ・ハッチンズの命を奪った悲劇的な事故について、私のショックと悲しみを伝えきれる言葉はありません。今回の事故がどのように起きてしまったのか、私は警察の調査に全面的に協力していますし、彼女の夫と連絡を取り、彼女の家族をサポートします。彼女の夫、彼らの息子、そしてハリナを知り愛していたすべての人のことを考えるだけで私の胸は壊れてしまいそうです」
『Rust』出演予定だったジェンセン・アクレスのコメント
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本作に出演予定だったジェンセン・アクレスは10月24日、自身のInstagramにハッチンスの写真とともに哀悼の意を表するコメントを投稿した。彼は「どこからはじめたらいいのか。これは僕たちがまだ対応しきれていない大きな悲劇です」としている。そして「先週はじめ、どうしても伝えたくなってハリナに彼女は最高だと話しました。彼女のカメラワークがどんなに素晴らしいか、そして彼女と撮影チームが働くのを見るのがどんなにわくわくするか伝えたのです。彼女は笑いながらありがとうと言い、ハグしてくれました。僕はあの瞬間があったことを永遠に感謝するでしょう」と思い出を共有している。また「彼女は勇気と情熱にあふれ、クルー全員に影響を与えていました。彼女はインスピレーションの塊でした」とその仕事ぶりを称賛した。つづけてアクレスは彼女の夫や息子、家族に祈りを捧げ、今回の事故を受けて映画製作者の教育を支援する団体AFI(アメリカ映画研究所)が設立したハッチンスの名前を冠した奨学金と、クラウドファウンディングに寄付を行ったことを明かした。そして自身のファンにも支援を呼びかけている。このコメントからも、ハッチンスが多くの同業者や俳優たちに慕われていたことがわかる。