『おかえりモネ』百音×菅波、なぜ釘付けに? 安達奈緒子脚本のスローな恋愛劇を紐解く

 シリアスかつ重い展開が多いNHKの連続テレビ小説『おかえりモネ』の中で、視聴者にキュンとくるときめきや癒しを与え、“#俺たちの菅波”のタグが作られるなど、作り手の予想を大きく超える盛り上がりを見せていた菅波(坂口健太郎)。

 しかし、この人気はキャラクター単体で生まれたものではない。清原果耶が演じる主人公・百音という“似た者同士”の組み合わせゆえに生じる、スローテンポで進行していく恋愛に、もどかしさを感じたり、ときに呆気にとられたりしつつも、応援したくなった視聴者が多かったのだ。

 そして、このスローテンポな恋愛は、安達奈緒子脚本の大きな魅力の一つだろう。ここでは序盤から二人のゆっくり進む恋愛を少々振り返ってみたいと思う。

 序盤で二人の距離感を象徴するのが、BRT内でのやりとりだ。出会ったばかりの頃の菅波は他者に対して壁を作っているように見え、BRTの最後部座席で百音と隣に座っても、不愛想で、会話も皮肉めいて、最短のターンで終了する。しかし、部活帰りの高校生たちが乗り込んで来たことで、二人の距離は「物理的に」ちょっと近づく。

 気象予報士の試験を受けようとする百音の勉強を菅波が見てくれるようになると、2人の時間が始まる。菅波は、百音が台風の日に生まれたことを覚えていて、過去の気象データから誕生日を割り出すというエピソードは強烈だった。本人と日々顔を合わせているのに直接聞かず、そんなまわりくどいことをする原動力には、単に頭が良いとかいう話ではなく、百音への関心があることは自明の理だ。にもかかわらず、本人はおそらく無自覚で、誕生日のプレゼントに中学理科の教科書を渡すセンスは、うっかりしたら嫌がらせである。

 二人の距離がさらに物理的ニアミスを起こすのが、百音の3度目の気象予報士試験の合否通知が届いたとき。結果を一人で見るのが怖い百音は菅波に一緒に見てくれと頼み、結果は「合格」。瞬時に二人は思わず手を取り合いそうになるが、慌てて手を引っ込める。勉強を始めてからここまでで1年半である。

 そんな二人が近づくのは、互いの心の傷に触れたとき。震災のときに自分が何もできなかったと語る百音の肩に手を伸ばしつつも、菅沼はその手にストップをかける。一方、菅波が新人ドクターだった時代に患者の夢を奪ってしまったと打ち明けたときには、百音は黙って菅波の背中に手をそっと添える。そこで菅波は「人の手というのは、ありがたいものですね」とつぶやくのだ。

 2人がようやく一歩踏み出したのは、コインランドリーで洗濯が終わるまでの待ち時間として、菅波が誘ったそば屋ランチ。「48分で戻る」とあくまで時間潰しであることを強調する。

 初めてのデートの約束は、百音が未知(蒔田彩珠)に菅波を紹介することが目的で、それもトラブルが生じて延期になるなど、ことごとく進展しない。二人の気持ちは幼なじみ・明日美(恒松祐里)や森林組合の人々、視聴者も含め、本人たち以外のほぼ全員がとっくに気づいていたというのに……。

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