性教育を超越した学びを描く 『セックス・エデュケーション』が高く評価されている理由

『セックス・エデュケーション』の真価

“多様性”という言葉は登場しない 全てが“普通”に描かれる

 特にここ10年の間で、映画・ドラマに限らず「多様性(diversity)」という言葉を聞く機会が増えたはず。しかし、未だにその言葉を用いないと何かを指し示すことができないようなドラマや映画は、はっきり言って“古い”と思う。もう私たちは多様性への気づきのフェーズはとっくに過ぎていて、それが“普通”だと考えるべきフェーズにいるのだから。

 『セックス・エデュケーション』の世界観が、そのお手本といってもいい。ゲイのキャラクターはゲイであることを理由にいじめられることもない。オーティスの親友エリックは最初校長の問題児アダム(コナー・スウィンデルズ)にいじめられるが、その原因は他にあった。校内にはゲイカップルも普通にいて、生徒同士がそれをさほど特別に思う描写もない。それに、いじめっ子のアダムは決して周りから許容されない。ひと昔前の学園ドラマでは、いじめっ子のターゲットになることが怖くて同調する生徒が普通にいたし、ゲイは“特別扱い”されていた。しかし、本作では「クールなものはクール、クールじゃないものはアンクール」という姿勢を生徒たちが貫き通しているのだ。本人が自信を持っていることを、誰も後ろ指を指して笑うことはない。ダンスボールにフルメイクでドレスアップをして現れたエリック。周囲は息を呑んで彼を見つめるも、楽しそうにしている姿に「いいね〜」と、賞賛した。彼とオーティスがその場で手を取り合って踊っても、それを「ゲイだ」といじったりもしない。こういった道徳観をしっかり描くことが、多様性が当たり前である今の時代に必要なのではないだろうか。

 そう、このドラマはとにかくキャラクターが良い。従来の“明らかに20代後半の見た目な”高校生ではなく、ちゃんと10代に見えるキャストを起用しているのも良いし、その素朴さも等身大に感じさせる。そして何より、「物語がキャラクターを描く」のではなく「キャラクターが物語を作る」ようになっているのが最大の特徴だと思う。よく、漫画家などクリエイターが「このキャラは勝手に動いてくれるから使いやすい」というような表現をするが、まさにそれ。特に最新のシーズン3は、もう製作者の顔すら見えないほどに、これまで登場してきたキャラが自由に動き回った印象を受けた。そのため、シリーズの最初の頃のようなセックスカウンセリングを通して脚本で説かれる道徳的な学びは薄まって、より個々のキャラクターのその後にフォーカスされている。オーティス以外のキャラのドラマが活性化したことで、もう彼が主人公として物語を引っ張る必要がなくなっていたのだ。

 たくさんの出来事がそれぞれに起きたシーズン3、シーズン4が果たしてどのような形で運ばれていくのか今から期待したい。

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ 『セックス・エデュケーション』
Netflixにて、シーズン1〜3独占配信中
公式サイト:https://www.netflix.com/title/80197526

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