『D.P.』『イカゲーム』『愛の不時着』 社会問題描く韓国人気作品が投げかけるメッセージ

『D.P.』『イカゲーム』が訴えるもの

 さらに、その南北分断の背景が今もなお影響している韓国人男性の兵役制度。その制度そのものは広く知られるようになったが、内部で何が行われているのかまでは知ることが難しかった。たとえ世界的な活躍を続けるスターさえも徴兵される、そんな圧倒的な強制力を持った制度で作られた閉鎖的な組織。そこは、私たちが想像していたよりも歪んだ人間関係を生み出しているようだ。

 実際に、兵役経験者が『D.P. -脱走兵追跡官-』を観ると、思い出したくない風景が蘇ってくると言っていた。先輩軍人からの理不尽な仕打ちにより1人ひとりの個性は殺され、日常的な暴行やいじめが蔓延。しかし、大人数を管理するという面では絶対的な上下関係はむしろ都合がいいとあって、その風景は黙認されやすいと聞く。そんな苦しい環境に絶えきれなくなった脱走兵が自死を選ぶという悲劇もフィクションではない。

 その国が抱える社会問題をドラマにして描くというのは、簡単なことではないと思う。なぜなら、褒められない部分を見せることは誰にとっても苦痛な作業だからだ。しかし、だからこそ昨今の韓国ドラマが積極的に文化や生活様式の中にある「ここがおかしい」という批判する作品を生み出していることに心が動かされる。

 その慣習は誰かにとって都合のいいものだから残っているに違いない。そんな利害関係を考えたら物怖じしてしまいかねないところを、「知ってもらうところから何かを変えていきたいんだ」という気概を感じるのだ。

 そんな作品の多くは「めでたしめでたし」のハッピーエンドで完結させないことも珍しくない。気持ち悪さを残すことで、今もなお続いている現実があるのだということ。このドラマをきっかけに、リアルなストーリーを紡いでいくのは私たち自身であるのだ……と伝えてくれているように思える。

 多くの人が魅力的なラブストーリーやヒューマンドラマのみならず、新しく何かを「知る」ことができる作品に惹かれているのは、そんな希望を拾い集めながら、1人ひとりがより良い未来を信じて歩いていかなければならない時代だからなのかもしれない。

■配信情報
Netflixオリジナルドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』
Netflixにて独占配信中
(c)Blackaura

Netflixオリジナルシリーズ『イカゲーム』
Netflixにて全話独占配信
脚本・監督・演出:ファン・ドンヒョク
出演:イ・ジョンジェ、パク・ヘス、オ・ヨンス、ホ・ソンテ、ウィ・ハジュン、キム・ジュリョン、トリバティ・アヌファム、イ・ユミ

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる