故・高畑勲監督も作りたかった『平家物語』 徳子の生き様は800年後の今どう描かれる?
重盛の屋敷には、嫡男の維盛(入野自由)、次男の資盛(小林由美子)、清経、有盛という4兄弟が暮らしていた。穏やかな維盛はびわに優しく接し、やんちゃな資盛とはたちまちケンカ仲間になる。夜になると、びわが重盛に琵琶を弾いて聞かせてやることもあった。屋敷の中の牡丹は、血の色とはかけ離れた穏やかな赤色をしていた。
ある日、重盛の妹、徳子(早見沙織)が屋敷を訪れる。男装のびわが女であることを見抜いた徳子は「女なんて……」と呟くが、その瞬間、びわは徳子が海中の渦に沈んでいく不吉な姿を幻視する。
資盛は徳子から祖父・清盛も訪れることを聞き、張り切って鷹狩りに出かけるが、帰り道に摂政・松殿基房に無礼を働いたとして乱暴を受けてしまう。重盛は礼を失した資盛を諌めるが、清盛は策略をめぐらして基房に恥辱を与えることに成功。これを「殿下乗合事件」と呼び、『平家物語』では「平家悪行の始め」として描かれていた。知らせを聞いた後白河法皇(千葉繁)は激怒する。平家の栄華に影がさしはじめた瞬間であった。
監督の山田尚子と脚本の吉田玲子は、山田の監督デビュー作『けいおん!』(2009年)から近年の劇場作品『映画 聲の形』(2016年)、『リズと青い鳥』(2018年)に至るまで、一貫して組み続けている名コンビ。これまでは青春時代の日常を通して、若者たちの揺れ動く感情を繊細に描いてきたが、今回はまったく舞台も登場人物の性質もまったく異なる一大叙事詩を手がけることになる。
だが、平家の悪行と戦争による滅亡を描くことより、先にも述べたとおり、重盛の家族をはじめとする平家の人々の日常とその生と死を描くことに主眼を置いているようだ。大きな歴史の奔流の中で、さまざまな喜びとそれより遥かに大きな悲哀を味わうことになる家族の物語が、どのように描かれるのか。これは、滅びゆくことが運命づけられた家族を描く大河ホームドラマと言ってもいいのかもしれない。
もう一人の主人公と言えそうなのが、重盛の妹、徳子だ。原作者の古川日出男はアニメ化に際して「いったい誰が、『平家物語』の主役は女たちでもあるのだ、と理解したか?」とコメントしているが、『平家物語』の女主人公とも言えるのが、数奇な運命をたどる平徳子、後の建礼門院徳子である。時代とそれを司ろうとした男たちに翻弄された徳子の生きざまが、800年後の今、女性クリエイターたちによってどう描かれるのかに注目したい。
■放送・配信情報
『平家物語』
フジテレビ「+Ultra」ほかにて、2022年1月より放送開始
FODにて、9月15日(水)24:00より先行独占配信
※放送、配信日時は都合により変更となる可能性があり
声の出演:悠木碧、櫻井孝宏、早見沙織、玄田哲章、千葉繁、井上喜久子、入野自由、小林由美子、岡本信彦、花江夏樹、村瀬歩、西山宏太朗、檜山修之、木村昴、宮崎遊、水瀬いのり、杉田智和、梶裕貴
原作:古川日出男訳 『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09 平家物語』河出書房新社刊
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:高野文子
音楽:牛尾憲輔
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャラクターデザイン:小島崇史
美術監督:久保友孝(でほぎゃらりー)
動画監督:今井翔太郎
色彩設計:橋本賢
撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:倉橋裕宗(Otonarium)
歴史監修:佐多芳彦
琵琶監修:後藤幸浩
(c)「平家物語」製作委員会
公式サイト: HEIKE-anime.asmik-ace.co.jp
公式Twitter:@heike_anime