『ロスト・ワールド』は本当に“駄作”なのか フィルムメーカーから愛される理由とその真価
フィルムメーカーから高く評価され、愛される理由
そして本作は、実はフィルムメーカーからは非常に高く評価され続けている。『ジュラシック・ワールド』と最新作の監督であるコリン・トレボロウ、そして先に挙げた『炎の王国』の監督J・A・バヨナも、筆者が来日取材の際に『ジュラシック・パーク』シリーズで一番好きな作品は何かと聞くと、揃って『ロスト・ワールド』と答えたものだ。
なぜなら、VFXとアニマトロニクスの技術が強く評価されている『ジュラシック・パーク』に比べ、『ロスト・ワールド』は細かいクラフトマンシップ溢れる美しいショットの宝庫のような作品だから。最たる例が、雨の中両親ティラノサウルスに襲われてトレイラーが崖っぷちへと押され、サラがガラスの上に落ちるシーン。ガラス越しに映るサラの表情と、小さくもはっきりとヒビが割れる音が聞こえて、視覚的にはもちろんあらゆる面でサスペンス性を巧みに表現した、映画史に残る名シークエンスだ。
スピルバーグは、大事な場面や見せ場でガラス越しのショットを多用する特徴がある。例えば『E.T.』で死にゆくETをエリオットがガラス越しに見つめるシーン。もちろん『ジュラシック・パーク』でも、車越しにレックスがライトを当ててティラノサウルスの瞳孔が開いたり、ラプトルがキッチンのドアのガラスを覗いたりと、印象的な場面がいくつもある。ガラス越しという温度感が伝わらないなかで、エリオットが吐いた息やラプトルの鼻息といった、熱を表現するのが好きなように思える。そういった視点からも、先述のトレイラーのシーンは雨が降って肌寒い環境の中で、サラが恐怖に震えて吐く息が彼女を支える唯一のガラスを曇らせるという、とにかくクレバーでスピルバーグらしい映像表現であり、そういったものが本作には多く見受けられるのだ。先に述べた草むらのラプトルの奇襲場面も、彼らの群れで狩るという特性を上手く表現している。結構、『ロスト・ワールド』は他作品にに比べ恐怖演出が強い印象で、こういうところも『炎の王国』に通じている。
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なにより、終盤のティラノサウルスinサンディエゴのシークエンスは、『ゴジラ』や『キングコング』が大好きなスピルバーグの「街でティラノが暴れる画が、ただ撮りたいんだ!」という心の声が聞こえてきそうなくらい、ただやりたかった感じがある。でも、それでいい。だって、クールだから。自分が監督として信じた画がしっかり映し出される作品は、それだけでその愛情と熱意、楽しさ、たくさんの素晴らしい感情が伝わってくる。それを鑑賞者が受け取って一緒になって作品を楽しむことこそ、映画を楽しむことの原点のように思えるからだ。
『ジュラシック・パーク』のラストには、島から脱出したヘリの横を、恐竜の進化した姿と言われる鳥が飛ぶ様子が描かれる。『ロスト・ワールド』はこれにかけて、満を辞して登場した翼竜プテラノドンの雄々しい姿をもって映画の幕が閉じる。このプテラノドンが大いに活躍する続編『ジュラシック・パークIII』も、最高だからぜひ観てほしい。
■放送情報
『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』
日本テレビ系にて、9月17日(金)21:00~22:54放送
監督:監督:スティーヴン・スピルバーグ
製作総指揮:キャスリーン・ケネディ
製作:ジェラルド・R・モーレン、コリン・ウィルソン
脚本:デイヴィッド・コープ
原作:マイケル・クライトン
出演:ジェフ・ゴールドブラム、ジュリアン・ムーア、リチャード・アッテンボロー、アーリス・ハワード
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