カンバーバッチが“普通のオッサン”に? 『クーリエ』で愛すべき小市民を完全体現
もちろん、これは監督の撮り方による部分(本作は人物の全身を映すカットが多い。舞台を見ている観客の視線に近い)もある。本作の監督はドミニク・クック。彼は演劇畑で名を成した人物らしく、ケレンミは薄めだが、実直な演出が何とも心地よい。そのクック監督の手腕は当然あるが、やはりカンバーバッチの俳優としての力は目を引く。
特に後半からの展開には度肝を抜かれた。ド派手な視覚効果も、大々的なロケでもない。セット(舞台)に立つ俳優たちのやり取りがメインになるのだが、ここでカンバーバッチの身長操作術が炸裂。色々あった末に、カンバーバッチは悲惨な目に遭うのだが、ここで彼は物凄く体を張った演技を見せてくれる。いきなり頭を丸坊主にされ、裸にひん剥かれ、拷問を受け、マトモな食事もさせてもらえず……心身ともに限界まで追い詰められ、彼の身長は体感160を切っていたようにすら思う。すでに平凡な一般庶民のカンバーバッチに親しみを覚えていただけに、ドンドン小さくなっていく彼を見れば見るほど、「自分が実際にこんな目に遭ったら、こうなるんだろなぁ」という共感と、「実際にこんな目に遭って、ここまで抵抗できるだろうか?」という感動を生む。
俳優は姿勢、声色、目線……いろいろな要素をコントロールして「たたずまい」を作るものだ。本作でカンバーバッチは、その卓越した演技力によって、求められるキャラクター像、すなわち家族と友を守るために勇気を振り絞る、平凡でユーモラスな愛すべき小市民の「たたずまい」を作り上げた。そしてさらに一歩踏み込んで「そういう人間が国家間の暗闘に巻き込まれるとどうなってしまうのか?」を文字通り体現してみせたのだ。まさに圧巻のパフォーマンスである。カンバーバッチといえば奇人・変人だが、どっこい彼はそれだけに留まらない。彼はもっと変幻自在な役者である。本作を見終わったあと、とりあえず「カンバーバッチ 身長」で検索をかけたくなるはずだ。ベネディクト・カンバーバッチという俳優の凄みを堪能できる1本である。
■公開情報
『クーリエ:最高機密の運び屋』
9月23日(木・祝)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:ドミニク・クック
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、メラーブ・ニニッゼ、レイチェル・ブロズナハン、ジェシー・バックリー
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
2021年/イギリス・アメリカ合作/英語・ロシア語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/112分/原題:The Courier/G
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