『かのきれ』でも印象的だった“雨ハグ” ドラマで恋愛中の男女はなぜ雨に濡れたがるのか

ドラマで恋愛中の男女はなぜ雨に濡れたがる

 『彼女はキレイだった』(カンテレ・フジテレビ系)が9月14日に最終回を迎える。胸キュンシーンが数多く印象に残るこのドラマだが、特に思い出深いのは、やはり第6話のラスト。愛(小芝風花)の正体に薄々気づきながら、彼女に惹かれる宗介(中島健人)が、愛の打ち合わせ先が火事になったと知ってすぐ駆けつける。そして無事だった彼女の姿を確認すると、大雨の中構わずに彼女を強く抱きしめるのだった。宗介は雨の日、特に母親の事故現場を想起させるためトラウマによる発作が出やすいのに、それすら頭によぎらなかったほど愛を想っていたという、彼の感情の強さが降りしきる雨に重ねて感じられるいいシーンである。

 男女が大雨の中、抱擁したり告白したりするシーンは昨今珍しいものではない。『彼女はキレイだった』は、同名の韓国ドラマのリメイク作として知られているが、つい先日最終話が配信され、現在もNetflix総合トップのランキングで存在感を放つ話題作『わかっていても』にも、最終話直前で大雨の印象的なシーンがあった。なぜ、ドラマで恋愛中の男女は雨に濡れたがるのか。人々は、一度くらい疑問に思ったことがあるだろう。

映画史で振り返る雨シーンと、その意味

 映画史を遡ると、1946年に公開された『ピクニック』が雨に濡れたがるカップルの起源に近い作品かもしれない。ジャン・ルノワールが監督を務め、白黒映画なのに最も色鮮やかな傑作として語り継がれてきた本作は、パリから休暇を楽しみに田舎に足を伸ばした一家の長女の心情を中心に描く。都会からやってきた箱入り娘の彼女は、結婚を控えていた。しかし、現地にいた青年に惹かれてボートを漕いでデートをする。ずっと水辺にいる彼ら、その水面の動きがヒロインの揺れる心を表していく。性的な欲望をはらむ場面、それを直接ではなく間接的に“水”で表すことも、これまでの映画の中で多用されていることの一つだ。そして結ばれた時に彼女が流す涙、そこに重なって降りしきる大粒の雨が“激情”を表現するという素晴らしいシーンが映画の中で印象的である。実はこの大雨、撮影中のハプニングで図らずともヒロインの心理にマッチしたというエピソードがあるとか。そうだとしても、このシーンを含め画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの息子であるジャン・ルノワールが本作で撮ったショットは、数多くの映画に影響を与えたことに違いはない。

 その後、このように雨の中大いに濡れて“激情” をぶつけるカップルが後を絶たない。印象的な作品を挙げるとすれば、1961年の『ティファニーで朝食を』もいい例だ。映画のラスト、玉の輿を狙っていたブラジルの大富豪から結婚を破棄されたホリー(オードリー・ヘップバーン)がタクシーの中で自暴自棄になって自分に重ねた猫を豪雨の外に放り出してしまう。そんな彼女を支えようとしていたポール(ジョージ・ペパード)も、その様子に参ってタクシーを出る。ホリーは一連の行動を後悔し、ポールを追いかけて一緒に猫を探す。そして猫を見つけるとコートの中に収めてずぶ濡れの二人はめちゃくちゃにキスする。これぞ、激情。

 そんな二人に負けていられないのが、2004年の『きみに読む物語』。身分差のあるノア(ライアン・ゴズリング)との仲を認められないまま、徴兵されてしまったノアと別れるアリー(レイチェル・マクアダムス)。それでも7年間ずっと手紙を書き彼のことを待っていたが、返事は一度もこず、アリーは裕福な弁護士と婚約してしまう。しかしひょんなことから二人は再会し、思い出の家の近くの湖でボートを漕ぎ、その間に大雨に打たれる。まさに先述の『ピクニック』に影響を受けていそうなこのシーンで、激しい雨に打たれながらアリーはノアに激情をぶつけ、お互いめちゃくちゃに抱き合ってキスする。堰を切ったように流れ出す感情が、止めどなく降りしきる大雨にリンクして描かれているのだ。

大雨は「大切なことを話す」サイン?

 しかし、その激情は決して恋愛にまつわるものだけではない。例えば1982年のリドリー・スコット監督作『ブレードランナー』では、レプリカントであるロイ・バッティ(ルトガー・ハウアー)が絶命する直前に大雨に打たれながら独白する、通称「雨の中の涙のモノローグ」と呼ばれるシーン。美しいものに触れたからこそ、人間と同じように自由を求め生きたいと願った彼の激情が表現されている。その激情には自分のアイデンティティを主張するようなコンフェッション(告白)に近い機能があり、これは『ピクニック』や『君に読む物語』のヒロインのそれにも通じるのだ。このように大雨は感情的になった登場人物の心理を描くうえで、何か大事なことを話す時というサインとして視覚的に用いられている。

 1994年の『ショーシャンクの空に』のクライマックスも、主人公アンディ(ティム・ロビンス)が大嵐の中ついに自由の身となり、雨に打たれながら天を仰ぐ。否定され続けてきた本当の自分(無罪)というアイデンティティと、自由を勝ち取った名シーン。ここでも彼の激情が大雨で表現されていた。多くの映画史に残る“名雨シーン”には、必ずと言っていいほどそういったキャラクターの感情のたかぶりが伴っているのだ。

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