『東京リベンジャーズ』千堂敦が背負う光と影 磯村勇斗と寺島拓篤が体現した“アッくん”像
※本稿は『東京リベンジャーズ』のネタバレを含みます。
不良ムービー×タイムリープの『東京リベンジャーズ』に登場する溝高五人衆のリーダー的存在が“アッくん”千堂敦(磯村勇斗)である。
魅力的なキャラクターが勢ぞろいする本作で、千堂は比較的視聴者に近いところにいる人物だ。主人公タケミチ(北村匠海)の親友というだけではない。劇中で千堂が背負うものの大きさが余計にそう感じさせるのだ。
タケミチの分岐点には千堂がいる。溝高の5人が年上の不良キヨマサ(鈴木伸之)から奴隷扱いされていた時、千堂は刺し違える覚悟でキヨマサに立ち向かった。千堂の心中を察したタケミチがキヨマサにタイマン勝負を挑んだことで、結果的に千堂たちは奴隷の身分を抜け出すことができた。タイムリープものの本作は、過去を変えることで未来も様変わりする。そのことを象徴しているのが千堂で、ヒナ(今田美桜)と並んで、過去を変えようとするタケミチのモチベーションになっている。
夢が美容師になることという千堂は、赤髪リーゼントのヘアスタイルでファッションにも気を使うおしゃれ男子だ。しかし、現代で千堂はリーゼントをやめ、キャバクラの店長をしている。不良の心意気を表すリーゼントがないことは、千堂が夢を諦めたことと、東京卍會(東卍)がもはやかつての東卍ではないことを暗示していた。
東卍の幹部になった千堂はタケミチに衝撃の告白をし、稀咲(間宮祥太朗)の名前を口にする。「怖えんだよ。ただひたすら、稀咲が」。現代で東卍を実質的に支配しているのが稀咲である。タケミチはナオト(杉野遥亮)から稀咲の名前を聞いていたが、メンバーの口から稀咲に言及するのはこの時が初めて。千堂は人の道を外れた東卍でがんじがらめになっており、「みんなを助けてくれ。泣き虫のヒーロー」と言い残してタケミチに後を託す。
優しくて男気あふれる千堂が、仲間を手にかけるほど闇堕ちする姿にショックを受けた人もいるかもしれない。しかし冷静に考えると、主要キャラのマイキー(吉沢亮)やドラケン(山田裕貴)がそもそも強すぎるのであって、タケミチにしても、自分より強大な相手に立ち向かう規格外のハートの強さがある。そんな中、稀咲の呪縛に苦しみ、組織と友情の間で引き裂かれる千堂は、人間として私たちと同じ地平にいる。千堂がいることで『東京リベンジャーズ』の人間ドラマとしてのリアリティが増しているのだ。