中村佳穂、佐藤健、成田凌、幾田りら 細田守最新作『竜とそばかすの姫』声優陣の表現力

『竜とそばかすの姫』声優陣の表現力

 <U>では醜く、嫌われ者の竜だが、もちろんその奥には生身の人間が存在する。竜が心の内に何かの傷を抱えているのではないかと感じたベルは、その正体を知りたいと願うようになる。だが、傷を抱えているのはすずも同じ。<U>ではベルとして歌で観客を熱狂させていても、現実のすずは人前で歌うことすらできない。すずもまた、母の死で負った傷を癒せていないのだ。

 そんなすずを気にかけているのが、すずの幼なじみの久武忍だ。人々が<U>がもたらす人間の二面性に翻弄されるなか、母を亡くしてから内向的になってしまったすずを、変わることなく見守るブレない柱のような存在でもある。そんな忍を演じるのは、『君の名は。』にも声優として出演した成田凌。クールだけれど思いやりのある忍を、そうとわかって聴いていないとわからないほどナチュラルに演じて見せた。

 そして、同じくすずを支える親友・別役弘香を幾田りらが演じていることも注目だ。弘香は、すず=ベルであることを知る唯一の人物で、ベルをプロデュースし、歌姫へと導いた立役者でもある。そんな弘香に抜擢された幾田りらは、ikura名義でYOASOBIのボーカルを担当している、押しも押されぬミュージシャンだ。本格的な演技は今回が初めてだが、毒舌で喜怒哀楽のはっきりしている弘香を感情豊かに演じ、作品を華やかに盛り上げている。

「あなたは誰?」

 ベルが竜に問うこの言葉は、ベル=すず自身への問いかけでもある。ベルとなって人と関わり、行動することで、現実のすずも自分の心の傷に向き合うようになっていく。姿や立場がどんなに違っても、ベルは本質的には内藤鈴なのだ。そして、一人の人間の中にはすずとベルを行き来できるほどの奥深さがあるのだということを、役者たちの見事な演技が証明してくれているように思う。

■公開情報
『竜とそばかすの姫』
全国東宝系にて公開中
監督・脚本・原作:細田守
声の出演:中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森川智之、津田健次郎、小山茉美、宮野真守、役所広司ほか
企画・制作:スタジオ地図
製作幹事:スタジオ地図有限責任事業組合(LLP)・日本テレビ放送網共同幹事
配給:東宝
(c)2021 スタジオ地図
公式サイト:https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/studio_chizu/
公式Instagram:https://www.instagram.com/studio_chizu/
公式Facebook:https://www.facebook.com/studiochizu/

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