長野の田舎を見事に表現! 細田守監督作『サマーウォーズ』の美術と作画の凄み

 夏が来ると定期的にテレビ放送されるアニメ映画『サマーウォーズ』(2009年)は、細田守監督の長編映画3作目にして、初の原作なしのオリジナル作品である。細田監督の前作『時をかける少女』(2006年)から、貞本義行(キャラクターデザイン)、青山浩行(作画監督)、奥寺佐渡子(脚本)、鎌田千賀子(色彩設計)をはじめ、多くのスタッフが引き続き参加している。

 『サマーウォーズ』の物語は、高校2年生の小磯健二が、憧れの先輩女子、篠原夏希の彼氏を演じるアルバイトで、長野県にある彼女の実家へ向かうことで幕を開ける。高齢の曽祖母に自分の婚約者を紹介して安心させたいという夏希のペースに乗せられて、そのまま親戚たちにも紹介されてしまう健二だったが、それと並行してOZ(オズ)と呼ばれるネット上の仮想世界では、人工知能ラブマシーンが思いがけない事件を起こす。現実世界のさまざまなインフラと繋がっているOZをハッキングしたラブマシーンの騒動は、やがて人の生死を左右する大事件に発展……というのが本作の大まかなストーリーだ。

 本作の見どころは多くある。まず舞台となる長野県の自然描写や、旧家の古い佇まいを表現する美術の良さだ。健二が夏希の曾祖母の家を訪れる時の、大きな門から玄関入り口まで距離のある俯瞰の構図。この引きのワンカットだけで、歴史があり、とんでもなく大きな家であることがすぐに分かる。設定では戦国時代から数百年以上続いている旧家ということになっているが、外見だけでなく家の内部も広くて入り組んでおり、健二が廊下を歩きながら迷ってしまう描写もある。美術監督の武重洋二が過去に同職を務めた作品として、『もののけ姫』(1997年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)、『ハウルの動く城』(2004年)などのスタジオジブリ作品を挙げれば、どれか1作でも観たことのある人ならば、『サマーウォーズ』の美術の見事さを観る前から想像できるだろう。

 そして驚くほどの人数で構成された親戚キャラクターの多さ。大半が”陣内”という苗字だが、夏希が健二に紹介するだけで子どもを含めてざっと20人以上はいる。初めてこの映画を観る人の中には、全員の名前と顔が一致しないまま終わる人もいることだろう。この多数の親類が座敷の大きなテーブルで、それぞれ動きながら食事をして喋るシーンが出てくるが、原画スタッフの作画カロリーもさぞかし大変だったろうと察せられる。

 また、そんな親戚たちに揉まれながら、ドラマが進む中で少しづつ距離感が縮んでくる夏希と健二の関係性も見ものだ。映画序盤こそ高校の先輩と、先輩に憧れを抱く後輩という域を出ない2人だが、中盤のある出来事で感情が溢れ出し、声を上げで号泣する夏希に寄り添い、そっと彼女の指をつかむ健二。そして健二の手に自らの手指を絡ませて強く握り返す夏希のシーンは映画半ばのハイライト。そのうち夏希は歓喜のあまり健二が後ろに倒れ込むほどの勢いで抱き着いたりするのだが、最後に2人の関係はどうなるのか? それは本編を観てのお楽しみ。

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