『おかえりモネ』浅野忠信と永瀬廉が表現する“喪失感” 佇まいが物語る傷の深さ

『おかえりモネ』浅野&永瀬が表現する喪失感

 連続テレビ小説『おかえりモネ』(NHK総合)第8週「それでも海は」では、視聴者も気になっているに違いない及川親子のこれまでが描かれ、父・及川新次(浅野忠信)と息子・亮(永瀬廉)の間に漂う“喪失感”の正体が明かされそうだ。

 この喪失の大きな理由は2つあるだろう。2人はおそらく東日本大震災で大切な2つの生き甲斐を失っている。まず1つ目は、新次の“船”だ。かつては気仙沼のカリスマ的漁師だったという新次だが、今やその面影はどこにもない。さらにどうやらこの“船”が震災前に新しく購入したもので、銀行と借金返済を巡って一悶着あったようだ。ヒロインの百音(清原果耶)の父親・耕治(内野聖陽)と幼なじみのはずなのに、わだかまりを抱えているのはこれが理由なのだろう。

 それでも、亮は高校卒業後、すぐに漁師見習いとして漁船に乗り始める。きっと彼にとってかつての父親は自慢の父そのもので、迷うことなく疑うことなく父親の背中を追ってきたのだろう。

 2つ目は、新次の妻、亮の母親の存在だ。百音の母親・亜哉子(鈴木京香)が、新次に電話をかけた際の電話帳の登録名「及川美波」という女性名がきっとそうだろう。(予告編によると坂井真紀が演じる女性に当たる)亡き妻のガラケーで電話に出ながらワンカップを飲む新次の背景には、彼の住まいと思われる仮設住宅が描かれる。楽しそうに花火をする親子の様子を間近に感じながら仮設住宅の中でひっそりと息を潜め一人佇む新次の背中にとんでもない哀愁と憂いが感じられた。

 さらに、亮は周囲にSOSを出すこともなく、たった一人酔い潰れ“堕ちてゆく”父親の介抱をし、迷惑をかけた周囲に代わりに謝罪して回る姿には観ているこちらの胸が押し潰されそうになる。

 新次も亮も“誰にぶつけたらいいのかわからない”怒りを抱えながら、おそらく互いに“喪失感の原因”について話し合う場も設けられていないのだろう。新次と亮が2人で向き合っている姿はまだ描かれていない。まだ目を合わせたシーンも観られていないのではないだろうか。“今”を生きるために、とにかく過去の辛いことから目を逸らすしかないのだろう。予告編で親子3人肩を並べて寄り添う集合写真が出てくるが、そこに写る溌剌とした表情の新次と無邪気な笑顔の亮とはまるっきり別人だ。

 おそらく、新次も亮もお互いのことを大事に思っているからこそ、互いを「巻き込む」ことができないのだ。新次は亮に不要な負担をかけてしまわぬようにと、何も語らず一人で自身の孤独を抱え込んでしまう。どうにかかつての威厳だって保ちたいのだろう。ただその姿にこそ亮はたまらなく寂しさを覚えるのだろうが、父親がいつ漁師として戻って来てもいいように彼も彼で一心に漁に出る。そして、決して他人に父親への愚痴も自身の本音も、家庭内の問題についても話すことはない。

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