『おかえりモネ』浅野忠信と永瀬廉が表現する“喪失感” 佇まいが物語る傷の深さ

『おかえりモネ』浅野&永瀬が表現する喪失感

 父子のとてもとても“閉じた関係性”、だけれどもその裏にある不器用であまりにぎこちない親子の絆を“付かず離れず”の距離感で浅野と永瀬が見せてきてくれた。浅野演じる新次は投げやりながらも船の話になると耕治に食ってかかり、消え失せてしまったかに見えた情熱を急に自分の奥底から呼び戻してやんわり灯して見せる。その緩急たるや流石である。永瀬も、皆に優しく気遣いを欠かさないながらも、周囲から少しでも立ち入られる気配を察知すると差し出された手をそっと振りほどく。というよりも掴ませることさえせずにするりと避けてみせる。柔和な彼の佇まいや表情、醸し出す空気の中に急にほんの一瞬だけ緊張感が走る瞬間があり、彼が負った傷の深さを物語る。普段の飄々とした彼の姿に一瞬の怯みが見えるのだ。少しでも他人に頼ることを覚えてしまえば、少しでも自分の心の中を覗いてしまえば、もうここに立っていることさえできない程に心細い思いをしているのだろう。相談に乗ろうかと寄り添おうとする百音に対して「ごめん。そういうのは俺……やっぱいいわ」と、拒絶するしか術を持たない彼がいたたまれない。

 2人ともひどく傷ついているのに、その“傷”を見て見ぬ振りしてきたが故に時が止まってしまっている。そんな“空虚さ”を新次はひたすらに酒に溺れることで飲み下し、亮はひたすらに受け流す。互いにその体裁を止めてしまえば“このままではどうにも立ち行かない”という残酷な事実にぶつかってしまうからこその“生きるための現実逃避”だ。

 そんな及川父子が、ここに来て初めて互いに感情をぶつけ合い現実で「向かい合う」姿が観られそうだ。2人がこれまでの思いや孤独を吐き出しきれますように。弱さや痛みや寂しさを分かち合えますように。2人の時計の針を進めるきっかけが得られますように。これは心して観た方が良さそうだ。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好き。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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