『世にも奇妙な物語 ’21夏の特別編』は粒ぞろいの放送回 加藤シゲアキらが見せる“生と死”

『世にも奇妙な物語』は粒ぞろいの放送回に

 『三途の川〜』で主人公を演じた加藤シゲアキといえば、昨年『オルタネート』で吉川英治文学新人賞を受賞し直木賞候補にもなるなど作家としての活躍が著しいが、『成る』で主演を務めるのは芥川賞作家の又吉直樹。偶然にも4人の主人公のうち2人が現代を代表する小説家というのはおもしろい。この『成る』は、AI将棋を題材にしたオリジナルエピソードであり、“不惑”という名前のAIと対局する岩屋賢太郎は、駒の裏面に書かれた言葉によって次々と過去をえぐられていく。プログラムによって“不惑”で対局を進めるAIと、それによって惑わされていく人間。この対比構造がまたシニカルに効いている。

『デジャブ』

 そして上白石萌歌が主演を務める『デジャブ』は、「記憶」というもののミステリー性を的確に捉えるエピソードであり、さながらクリストファー・ノーランの『インセプション』のような複雑さで観る者を惹きこんでいく。今回の4つのエピソードはいずれも、一室の中や異空間、ひいては個人の意識下など、かなり限定された空間で展開するものばかりなのが目に付く。その範囲の狭さによって、より「生」と「死」というものがパーソナルなものであることが証明されていく。内側に込められたものを、ストーリーテラーであるタモリの誘いを受けて外側から覗き見する。秀逸なアイデアを活かしきり、“物語”は個々人の中にあることを教えてくれる粒ぞろいの放送回ではないだろうか。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
土曜プレミアム『世にも奇妙な物語 ’21夏の特別編』
フジテレビ系にて、6月26日(土) 21:00~23:10放送
ストーリーテラー:タモリ

『あと15秒で死ぬ』
出演:吉瀬美智子、梶裕貴、山口まゆ、赤間麻里子ほか
原作:榊林銘『十五秒』(東京創元社ミステリ・フロンティア『あと十五秒で死ぬ』所収)
脚本:荒木哉仁
演出:城宝秀則

『デジャヴ』
出演:上白石萌歌、鶴見辰吾、玄理、亜呂奈ほか
脚本:荒木哉仁
演出:城宝秀則

『三途の川アウトレットパーク』
出演:加藤シゲアキ、島崎遥香、潤浩、芋生悠
原作:寺田浩晃『三途の川アウトレットパーク』(小学館『サンデーうぇぶり』 掲載)
脚本:安江渡
演出:植田泰史

『成る』
出演:又吉直樹、浅野和之、工藤美桜
脚本:相馬光
演出:植田泰史

編成企画:渡辺恒也、狩野雄太
プロデュース:中村亮太、関本純一
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビ
(c)フジテレビ
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/kimyo/
公式Twitter:@yonimo1990

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