公開から間もない作品が続々登場! 海外の事例とともに邦画スピード配信の傾向を探る

邦画も配信が主流になる?

観客にとってのNetflixでのスピード配信の利点

 公開から間もない映画がストリーミング配信されることは、観客にとってどんな利点があるのだろうか。その1つは間違いなく地方のラグ解消だ。大都市圏を除く地方では、大作映画でなければ公開が遅れる場合が多い。さらに小・中規模作品は、公開自体がされないこともある。そうなるとDVDなどのリリースを待つしかなく、リリース自体が見送りになれば結局作品を鑑賞することができない。地方に住む映画ファンにとって、小・中規模の映画を観ることができるかどうかは大きな問題なのだ。それが配信で鑑賞できるとなれば、利用しない手はない。

『劇場』(c)2020「劇場」製作委員会

 またライトな観客層にとっても、Netflixで追加料金なしで最新作が観られるのであれば観てみようと、多くの作品に触れる機会が増えるだろう。先ほど触れた対談で、映画『劇場』(2020年)をAmazonプライム・ビデオで劇場公開と同時に見放題配信に踏み切った行定勲監督は、次のように語っている。「SNSでの感想やレビューの数も、いままでの僕の映画とは比にならないくらいあって、その感想が辛辣なものも多くて、自分のお客さんに向けて届けばいいというものではないなにかが、配信では得られると知りました」。行定監督ほどになれば固定ファンが相当数いると思われるが、『劇場』はそれ以外の客層にも届いたということだろう。観客にとって、映画館に足を運ぶほどではないが少し興味がある、という作品を鑑賞するには、ストリーミング配信は魅力的だ。先述したとおり配信スピードがあがっている小・中規模の作品は、特にそういった潜在的な観客層も多いだろう。さらに追加料金なしで鑑賞できるとなれば、気軽に観ることができる。またその作品を知らなかったとしても、Netflixのようにパーソナライズされたレコメンド機能で作品を知り、鑑賞することもあるだろう。ストリーミングで最新作が配信されることは、観客にとっては利点しかない。

劇場派・クリエイター側の思い

 ではクリエイターにとって作品をストリーミング配信するということには、どんな意味があるのだろう。今のところ多くの映画監督は、作品を映画館で上映することを念頭に制作しており、公開と同時配信には懐疑的なようだ。それはそのとおりだと思う。作った側としては、その魅力が一番引き立つ環境・状態で観てほしいと思うのは当然だ。海外では『インセプション』(2010年)や『ダンケルク』(2017年)、そしてコロナ禍の2020年9月に公開された『TENET テネット』のように、大迫力の映像を作品の醍醐味としているクリストファー・ノーランが、配信反対派の1人として知られている。彼は、劇場での“映画体験”を重視しており、配信を前提とした作品づくりはしないと宣言しているのだ。映画館での非日常の体験は、彼の作品の重要な一部となっている。

『TENET テネット』(c)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

 一方で配信によって多くの人が作品を目にすることは、製作側にも良いことがあるはずだ。すでに紹介した通り、米Netflixでは錚々たる名監督たちの作品を製作・配信している。Netflixは潤沢な製作費や内容の自由度、クリエイターに多くの権利が残るなど、メリットが多いのだという。もちろん配信を前提に製作していれば、それに適した作品になる。先に触れた『アイリッシュマン』は3時間超えの作品で、上映回数を増やして、より多くの観客を入れたい映画館にはあまり適していないと言えるだろう。しかし配信であれば、その点はあまり気にする必要がない。

 またNetflixは全世界で約2億世帯が加入しており、世界各国でほとんど同じ作品を視聴することができる。邦画の魅力を届けるためには、最新作の配信は重要になってくるだろう。世界の観客の目に触れ、その評価を受けることで、邦画の在り方も変わっていくかもしれない。現状、国内の観客をメインターゲットにしている日本の映画は、欧米などを中心とした世界の価値基準とは大きく違うところがある。欧米的な価値観がすべて正しいとは言わないが、日本の映画文化を守り、同時に世界での評価を求めるなら、どんどん外に発信していくべきだ。

 コロナ禍で必要に迫られて最新映画のストリーミング配信が広がったとはいえ、今後以前のように完全に映画館での上映が主流に戻ることはないだろう。しかし映画館がなくなるということも考えにくい。気軽に映画を楽しむことができるストリーミングと、非日常に没頭できる映画館とは、それぞれに違った魅力がある。海外ではすでに劇場公開から間を置かず配信される作品が増えているが、邦画でも大作が劇場公開後間もなく配信される日が来るかもしれない。映画を楽しむ方法が増えれば、映画を愛する人も増えるだろう。今後、映画館と配信とがどのように共存していくのか、楽しみに見守っていきたい。

■瀧川かおり
映画/海外ドラマライター。東京生まれ、グラムロック育ち。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、10代は演劇に捧げる。趣味は編み物ほか手芸。金曜の夜に酒を飲みながら映画や海外ドラマを観るのが毎週の楽しみ。

■配信情報
『ヤクザと家族 The Family』
Netflixにて配信中
監督:藤井道人
出演:綾野剛、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、菅田俊、康すおん、二ノ宮龍太郎、駿河太郎、岩松了、豊原功補、寺島しのぶ、舘ひろし
プロデューサー:河村光庸
制作:スターサンズ
配給:スターサンズ、KADOKAWA
(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
2020年/日本/136分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル
公式サイト:yakuzatokazoku.com

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