増加し続ける動画配信サービス 多チャンネル化は逆に映画館に福音をもたらす?

動画配信の多チャンネル化が与える影響

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第44回は“動画配信の多チャンネル化は映画館にとって福音にもなるか?”というテーマで。

 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が月曜公開という異例中の異例のスタートを切りながらも、ロケットダッシュを見せ、ついにはシリーズ最高興収を記録したニュースが華々しく流れておりますが、その影で映画館のスタッフとしては、同週に始まったある作品の在り方に、衝撃を受けていました。

 それは『ラーヤと龍の王国』。ディズニーの、いわゆる「プリンセスもの」の新作です。この作品は映画館での公開と同日に、ディズニーの独自動画配信サービス「ディズニープラス」で「プレミア アクセス」という、月額料金にさらに3,278円の別料金を支払う形で配信もされました。

 これを受けて『ラーヤと龍の王国』は、大手チェーンであるTOHOシネマズ、MOVIX、T-joy系列では公開されず、おそらくはディズニーアニメ史上初だと思うのですが、公開初週から多くのいわゆるミニシアターがリストに入ったのです。

 80年代にレンタルビデオ店が世界中で普及した時のようなことが、ふたたび映画館業界に訪れようとしているのを感じます。こうなることは、NetflixやHulu、Amazon Prime Videoが登場してきた時に、誰もがわかっていたことです。来るべきその未来のために、僕がどう考え、どういう準備をしているか、この連載はその記録でもあります。

 しかし、変化が早すぎます。加えて同じくディズニーはアメリカでは『ブラック・ウィドウ』『クルエラ』も配信と劇場公開を同時に行うことが決まりました。『あの夏のルカ』は配信オンリーとなりました。

 一度動き出した歯車は、もう止まらないでしょう。おそらく今後ディズニー作品は(20世紀スタジオ作品までそうするかはまだわかりませんが、少なくともディズニーブランド作品は)、仮にコロナ禍がある程度収束したとしても、これがスタンダードになっていくと思っていたほうがいいかも知れません。

 この連載を読んで下さる映画ファンならば、先行してワーナー・ブラザース作品が、アメリカ本国では「HBO Max」という動画配信サービスで、少なくとも2021年公開作品はすべて、劇場公開と同日配信することをご存知かと思います。ここには『ゴジラvsコング』、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるふたたびの80年代SF名作リブート『DUNE/デューン 砂の惑星』、そして『マトリックス4』みたいな大ヒット間違いなしの大作たちも含まれるわけです。

 これだけではありません。さらに大手スタジオであるパラマウントが「Paramount+」を始めたのです。今のところ傑作『クワイエット・プレイス』の続編『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』や『ミッション・インポッシブル7(仮題)』を劇場公開と同日ではないものの、30日〜45日後に配信すると発表しています。

 まだ詳細はわかりませんが「Paramount+」にはやはり大手スタジオMGMの作品も含まれるのです。例えば『007』シリーズはここで配信されることが決定しています。延期になっている最新作『007/ノータイム・トゥ・ダイ』は果たしてどうなるのか。

 日本での状況は現時点では全然わからないことではあるのですが、しかし、これらの報に触れて眩暈がしない劇場関係者はいないでしょう。映画界、急激変。

 しかし、満開の桜を灰色の瞳で見上げながら、ゆっくり深く呼吸をしてみます。絶望とあきらめは、判断を曇らせます。

 ……待てよ。今よりもさらに製作/配給会社の独自配信サービスがどんどん増えて、それぞれが生き残りのために自社作品を独占で配信し始めたなら、動画配信サービス市場の未来はどうなる?

 ここからは、あくまでも僕の妄想です。繰り返しますが、日本では現時点ではアメリカでのサービスがどのように展開されていくのか、まだ明確ではない状況ですので、リアリティのある「近未来SF」くらいで受け取ってください。

 各映画製作会社が、それぞれに動画配信サービスを始める未来。それは、10も20も動画配信サービスが乱立するということです。

 現在、あなたはいくつの動画配信サービスに加入していますか? Netflix、Amazon Prime Video、Disney+、Hulu、dビデオ、U-NEXT、ビデオマーケットなどなど。2つ? 3つ? あるいはそれ以上?

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