『大豆田とわ子と三人の元夫』の“終わり”が繋ぐもの 松たか子が口ずさむ歌の意味とは

『まめ夫』松たか子が口ずさむ歌の本意

 一般的に言われている概念が絶対的なものに感じられるかもしれないけれど、それに従って生きることだけが人生ではないこと。むしろ、そこが不思議な旅の始まりになりうる。とわ子が愛する人たちは、どこか「ラジオ体操のリズムにズレてしまう」ようなタイプばかりだし、そんな彼らと出会った冒険だからこそ別れたあとにも元夫としてとわ子の人生に関わり続ける。突然、この世を去った親友・かごめ(市川実日子)も、ドアの音ひとつに気配を感じ続ける。

「いなくなるのって消えることじゃないですよ。いなくなるのって、いないってことがずっと続くことです。いなくなる前よりずっと傍にいるんです」

 かつて坂元作品の『カルテット』(TBS系)で松たか子扮する巻真紀が、そんなセリフを放っていたことを思い出す。もちろん死は悲しいし、目の前からいなくなることは寂しい。でも、それを避けては通れないのが人生だと、大人になるにつれて私たちは痛感する。前向きに生きていかなければならないと自分を奮い立たせなくてはならない。

 その気持ちの置きどころのひとつとして、「人間は現在だけを生きているんじゃない」「あなたが笑ってる彼女を見たことがあるなら、今も彼女は笑っている」と、この世間で言われている時間とは別の「時の異次元空間」を持ったっていいのだ。

 そして、ときにはこぼれてしまう何かにあらがわないことも、私たちには必要だ。最善を尽くして選択した現実よりも、あったかもしれない“もしかしたら”が眩しくて温かいことだってあるのだから。

 また「誰かと生きる」という言葉が「男女2人1組での恋愛関係」を前提としなければならないこともない。その時の異次元空間を共有できる人となら、例えば1人の死者と2人の生者だったり、1人の元妻と3人の元夫でもいい。そんな関係性こそが、不思議な旅の果てに見つける奇跡なのかもしれない。

 人生は始まりと終わりの区切れの見えない連続。だから「続編は1作目を越えられない」のが世の常だけれど、何が1作目でどこからが続編かは、私たちの見方次第といったところだろうか。“とわ子の結婚”という区切りで見るならば、1作目は八作(松田龍平)で、鹿太郎(角田晃広)と慎森(岡田将生)は続編といったところ。

 しかし、“とわ子の恋”で考えると八作の前にも想いを寄せた人がいたわけで。そして、今夜放送の最終回にして、その初恋の人が登場する。帽子を被せられ「シュッパーツ!」と腕を突き上げるとわ子の、どこかで見たような姿も。『大豆田とわ子と3人の元夫』というドラマもまた終わりから始まりへと繋がりを感じさせる。

 きっと最終回の放送が終わった途端に、また語り尽くせない思いの共有があちらこちらで始まることだろう。そして『大豆田とわ子と三人の元夫』と一緒に、私たちの人生もまた続いていくのだ。

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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