『クルエラ』が内容的な成功を収めることになった理由 掲げられた新しいメッセージとは

『クルエラ』が内容的な成功を収めることになった理由 掲げられた新しいメッセージとは

 『101匹わんちゃん』(1961年)のクルエラ・ド・ヴィルといえば、ディズニーのアニメーションの歴史の中でも、屈指のインパクトと残虐性を持ったキャラクターとして知られる。ファッション界の大物として、周囲の人間をゴミのように扱い、汚い言葉を撒き散らす。何より、多くの人々が犬を愛するイギリスで、大勢のダルメシアンを盗み出し、毛皮にしてしまおうというのだから、名前や風貌と相まって、まさに悪魔(デビル)としか言いようがない。

 近年、自社のクラシックアニメーション作品を、予算をかけた超大作として実写映画化する企画が目白押しのディズニーで、今回実写化された『クルエラ』は、『101匹わんちゃん』のヴィラン(悪役)を主人公に、彼女の若かりし時代を描くスピンオフ作品だ。その鮮烈で質の高い出来には驚きの声があがっている。ここでは、そんな本作が内容的な成功を収めることになった理由と、掲げられた新しいメッセージについて考察していきたい。

 『101匹わんちゃん』の実写化といえば、クルエラをグレン・クローズが思いきり邪悪に演じきった実写映画『101(ワンオーワン)』(1996年)が思い起こされる。この作品は、オリジナル版を90年代の現代劇として翻案することで好評を博し、続編の『102』(2001年)も製作されるなど、ディズニーアニメーション実写化企画が活発化する2010年代のだいぶ前に達成した、実写化成功例として知られている。その第一の功労者として、グレン・クローズは、新しい実写化企画である本作『クルエラ』のエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。

 『101』での実写化と本作が異なるのは、クルエラが主人公となっている点だ。そして、グレン・クローズが演じた“クルエラ”に比べると、今回エマ・ストーンが演じる“クルエラ”は、同情したり応援する余地の大きいキャラクターとして描かれているのが特徴となっている。その活躍ぶりは、“ダークヒーロー”と呼べるほどで、これは、同じくディズニーのヴィランを主人公に、その境遇を同情的に表現した『マレフィセント』(2014年)シリーズの試みに近い。

 だが、作品がこのようなバランスになることは、容易に予想できたことではある。多くの観客の支持が必要な娯楽大作では、悪者をただ悪者として描くだけで成立させることは困難であり、ディズニー作品としても悪をただ礼賛するような表現は認められないだろう。では、どうすればクルエラを安易に正義の側に引き込むことなしに、正しい行為をさせることができるのか。その答えは、より悪いキャラクターを登場させることだ。本作ではエマ・トンプソンが、まさに悪魔のようなファッション界のカリスマを演じ、犬を盗んだり殺すよりもさらに倫理や法を逸脱した悪行を繰り返す。この悪を倒すためにのみ、クルエラの悪行は正当化され得るのである。

 本作の舞台は、1970年代のロンドン。後に“クルエラ”と名乗ることになるエステラ(エマ・ストーン)は、親を失った孤児であり、同じく孤児として育ったジャスパーとホーレスとともに、泥棒稼業で生計を立てていた。少女の頃に夢見たファッションの世界への憧れを捨てられないエステラを見かねたジャスパーらは、彼女を老舗高級百貨店“リバティ・ロンドン”で働けるように細工する。夢への入り口に立ったエステラは、雑用をこなす日々を続けるが、持ち前の傑出したセンスを、ついにカリスマファッションデザイナーのバロネスに見出されることになる。

 悪魔のように傍若無人なバロネスと、その下で翻弄されながら懸命に働くエステラという構図は、ファッション雑誌編集部で、カリスマ鬼編集長の下で働くことになった新人アシスタントの物語を描く小説と、その映画化作品『プラダを着た悪魔』にそっくりだ。それもそのはずで、本作の5人の脚本陣には、『プラダを着た悪魔』映画版の脚本家アライン・ブロッシュ・マッケンナが参加しているのである。

 これはおそらく、作品にファッション業界のサクセスストーリーを盛り込みたいプロデューサーによる要請だろう。同様に、やはり設定が近い『女王陛下のお気に入り』(2018年)脚本のトニー・マクナマラも参加しているように、本作はまさにディズニーらしい剛腕で、類似した過去の成功作の要素を手に入れているのである。

 この、エステラがファッション業界のなかでのし上がり、新たなカリスマ、クルエラとなっていくまでを描く流れこそ、本作の白眉だといっていい。1970年代イギリスといえば、反骨的なパンクファッションの夜明けと重なる時期。ここでのモード(ファッションの流れ)の転換点こそが、まさにクルエラが劇中で起こす革命と同じものとして設定される。そのことで本作は、業界での出世物語と、文化の刷新が描かれるダイナミックな時代の物語として成立しているのである。

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