『クルエラ』が内容的な成功を収めることになった理由 掲げられた新しいメッセージとは

『クルエラ』が内容的に成功した理由

 クレイグ・ギレスピー監督と、撮影監督のニコラス・カラカトサニスは、実在する有名フィギュアスケーターの女性の犯罪を映画化した『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2018年)でも組んでいたが、本作でもその手つきは健在だ。エリザベス女王の治世に建てられた16世紀の荘厳なカントリーハウスでのファッションショーや、リバティ・ロンドンのクラシカルな佇まい、緊迫した空気漂うバロネスのパーティー、そして失意の中でエステラが過去を振り切ろうとする夜明けのロンドンの光景など、随所でその場の空気ごと取り込んだドキュメンタリー映画のような乾いたタッチが見られ、犯罪映画のダークな美しさがファッションの美と重なることで、驚くほどスタイリッシュな世界を醸し出している。

 アニメーション映画『101匹わんちゃん』は、スケッチ風に引かれた強い線で描かれた、縦長のキャラクターと、選び抜かれた配色でシンプルに表現された背景画によって、ディズニー・アニメーションの中でも最も洗練された映像を完成させた作品の一つだった。その意味で、本作『クルエラ』は、90年代のディズニーによる『101』では到達できなかった、美学的にもオリジナルに迫る映画なのだ。

 また、衣装デザインを担当しているジェニー・ビーヴァンは、ちょうど本作のクルエラ世代にあたるデザイナーで、70年代から映画の衣装を手がけ、ロンドンの時代の息吹をリアルタイムで感じている人物である。彼女は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)でアカデミー賞を獲得したとき、周囲の女性たちがエレガントなドレスに身を包むなかで、黒いジャケット姿でオスカーを受け取ったことでも話題になった。その態度は、まさに本作のクルエラそのものである。

 社会的な階級制度が根強く存在するイギリスは、60年代に音楽やファッション、アートなどでポップカルチャー(大衆文化)が花開き、労働者階級出身の若いアーティストたちが成功を収め始める。本作の舞台となった70年代は、その流れがさらに過激なものとなり、既存の社会に対して強いメッセージを打ち出すパンクムーブメントが発生することになる。

 本作では、時代を象徴する当時の曲とともに、貧しい子どもとして育ったエステラが、挑発的なメッセージとともに、これまで権勢を誇っていたバロネスを打倒しようとする。そのためにエステラが周囲を驚かせる奇抜な女性として変身を遂げるクルエラという存在こそが、まさにパンクの化身として表現されているのだ。パンクロックとともにクルエラのファッションショーが大盛況となる場面は、パンクファッションの象徴となったヴィヴィアン・ウエストウッドのイメージと重ねられる。

 この痛快な女性像は、『101匹わんちゃん』で描かれた、醜悪さを煮しめたようなクルエラの姿とは、根本的に異なるものだ。もともとオリジナル版のクルエラは、大学時代の友人が結婚して家庭を持つことに嫉妬を覚えて、犬を盗み出してやろうとする人物であり、『101』も、基本的にその動機を受け継いでいた。しかしこの構図は、従来の家庭的な女性像を一方的に理想とし、自立して男性以上の力を持つ女性の価値観を否定するような考え方が反映してるようにも見える。どんなに社会的な成功を収めたところで、愛する男性と巡り合ったり、温かい家庭を作ろうとしないクルエラは、みじめで孤独な存在だと言っているかのようである。

 前例のないことを達成し、道を切り拓く女性は、現在でも理不尽な批判にさらされることが多い。ディズニーの諸作品においても、女性のヴィランたちはパートナーを見つけず、不気味な城のような場所で怪しげな実験を繰り返しているイメージを持たされている。

 だが、近年になってディズニーは、そのように女性に対してスティグマ(刻印)を押し付けるのを避けるようになってきた。その代表が、『マレフィセント』シリーズのヴィランの描き方であり、さらには『アナと雪の女王』シリーズにおけるエルサの存在だといえよう。ディズニープリンセスの一人にも数えられていたエルサが最後に到達する場所は、まさにこれまでのヴィランたちのいた位置である。だからといってエルサは、邪悪なキャラクターになっていくわけではない。むしろ、作品は彼女のような生き方こそが新しい女性の一つのロールモデルであることを指し示している。

 力を得ることも、不遜な態度をとることも、従来の価値観から外れることも、男性であれば賞賛されることが少なくない。ならば、女性がそういう道を辿ることに賛辞を贈っていけないわけがない。ディズニーは長い年月のなかで、これまでに女性のヴィランに与えてきたイメージを刷新する方向へと舵をきっている。それは、60年代の大衆文化の繚乱や、反抗的なメッセージを発した70年代のパンクムーブメント同様、一つの革命へと向かう道筋なのではないだろうか。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開・配信情報
『クルエラ』
映画館、ディズニープラス プレミア アクセスにて公開中
※プレミアアクセスは追加支払いが必要
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:エマ・ストーン、エマ・トンプソン、マーク・ストロング
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン 
(c)2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.



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