『青天を衝け』堤真一×草なぎ剛の名コンビをまだ観たかった 円四郎の志は栄一へ

『青天を衝け』堤真一演じる円四郎の最期

 大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)第16回「恩人暗殺」では、円四郎(堤真一)が水戸藩士に暗殺される。

 降ってきた雨に恵十郎(波岡一喜)が傘を取りに離れた、その一瞬の隙をつく急襲。林忠五郎(丸山敦史)と江幡広光(嘉人)は円四郎にそれぞれ一太刀ずつ天誅を下す。飛び散る鮮血。その場に駆けつけた恵十郎は襲った2人と激しく交戦するが、円四郎の命はもうすぐ尽き果てようとしていた。

「おりゃあ、まだ死ねるか……。まだ見てぇもんが山ほど……」
「死にたくねぇなぁ……」

 思いを馳せるのは慶喜(草なぎ剛)の側で見るつもりにあった新しい世。円四郎は仰向けになって右手を伸ばし「殿……あなたはまだこれから……」「やす……」と慶喜、そして江戸で帰りを待つ妻のやす(木村佳乃)に思いを巡らし果てていく。

 やすへの遺言となってしまった「おかしろくもねぇ時は掛け軸の小鳥にでも話しかけろ」という言葉からは、まるで掛け軸に描かれた番い鳥が夫婦のように見えてくる。人選御用の命を受け関東に出向いていた栄一(吉沢亮)の元にも円四郎は鳥の囀りとなって現れていた。

 やすや栄一が円四郎の死を知るのはもう少し先のことになるが、慶喜はその訃報を真っ先に受け止めることとなった。我を失い屋敷をひた走る慶喜。父・斉昭(竹中直人)が亡くなった際も頑なに動じずにいた慶喜が、人目もはばからずに悲しみをあらわにする。「円四郎よ。尽未来際と……申したではないか」。慶喜の涙を隠すほどに降り続ける雨がその深い喪失を表しているように思えた。

 円四郎は惚れ込んだ人にはとことん尽くし、自分の考えを忖度なくきっちり言える人物。それは相手が慶喜であっても。そんな円四郎に慶喜も諍臣になることを望んでいた。円四郎が尽未来際お供することを誓った最後のやり取りで、慶喜は「私は……輝きがすぎるのだ」と自身も認める“変なこと”を話している。

 周りが騒ぎ立てるほどの人物にはあらず、実際は凡庸な男。斉昭や円四郎でさえも慶喜に幻を見ていると突飛なことを言い始める。それは言い換えれば、慶喜自身にも測ることのできないミステリアスな魅力であり、品格。そこに惚れ込んでいる円四郎にかかれば慶喜には自然と笑みが浮かんでくる。「全くそなたにはかなわぬ」。そんな2人のほのぼのとしたやり取りがもう見れなくなってしまった……。ちなみに、公式サイトに公開された堤真一へのインタビューでは、慶喜と草なぎの姿を重ねながら、「今回、久しぶりに草なぎくんと一緒のシーンを演じて、その演技に心を打たれる瞬間が何度もありました」と答えている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる