昨年は若者が、今年は高齢者が映画館を救う? 『いのちの停車場』初登場1位

昨年は若者が、今年は高齢者が映画館を救う?

 先週末の動員ランキングは、『いのちの停車場』が土日2日間で動員13万5000人、興収1億4800万円をあげて初登場1位となった。同作は昨年11月に急逝した東映グループ元会長の岡田裕介氏が手がけた最後の作品。岡田裕介製作総指揮、成島出監督、吉永小百合主演という座組の作品としては、2014年公開の『ふしぎな岬の物語』以来、7年ぶりの作品となる。

 同作をめぐっては、東京都及び大阪府のメジャー系列の映画館や大手シネコンチェーンが緊急事態宣言下の休業要請を受け入れている現状にあって、予定通り公開されるかどうかが注目されていた。今回、公開延期とならなかった要因としては、吉永小百合主演の過去作の傾向を踏まえて、本作の興行が「都市型」ではなく「地方型」である、そして「初速型」ではない、との予測があったのだろう。東京や大阪に三度目の緊急事態宣言が発出された4月後半以降の映画興行を見ると、動員や興行収入の目減りは実際の休館数以上の影響となって表れている。しかし、「地方型」であればその影響が最小限であろうこと、そして「初速型」でなければ東京や大阪の映画館が営業を再開してからもある程度の動員が見込める。その判断が正しかったかどうかは今回の数字からは断言しにくいが、新作の供給数が減っている状況にあって、地方の映画館にとっては少なからずサポートとなっているという点においても今回の英断を支持したい。

 昨年の緊急事態宣言明けに日本国内の映画館を支えたのは、『今日から俺は!!劇場版』や『コンフィデンスマンJP プリンセス編』や『事故物件 恐い間取り』に押しかけた若い世代の観客だった。しかし、『いのちの停車場』のような作品がスケジュール通り公開されたことは、この1年以上、ウイルス感染への心理的影響もあって映画館から遠ざかってきた高齢層の観客が戻るきっかけにもなるだろう。高齢者のワクチン接種の完了まではまだしばらく時間がかかりそうだが、今後、先行してワクチンの2回接種を終えた高齢者の影響が映画興行に出てくる可能性も期待できるのではないだろうか。

 明日(5月28日)には、政府から緊急事態宣言の6月以降の延長が正式に発表される見込みだという。それに合わせて、現在東京都で出ている映画館を不当に扱った要請が見直されることに期待したい。今週、映連(一般社団法人日本映画製作者連盟)も国の方針とも異なる都からの理不尽な要請が出てから17日間も過ぎた5月24日になって、ようやく「『映画館』再開の要望について」という声明文を出すに至ったが、いずれにせよ6月以降もまだしばらく万全なかたちでの興行に戻ることはないだろう。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『いのちの停車場』
全国公開中 ※一部地域を除く
出演:吉永小百合、松坂桃李、広瀬すず、南野陽子、柳葉敏郎、小池栄子、みなみらんぼう、泉谷しげる、石田ゆり子、田中 泯、西田敏行
監督:成島出
脚本:平松恵美子
原作:南杏子『いのちの停車場』(幻冬舎)
配給:東映
 (c)2021「いのちの停車場」製作委員会
公式サイト:https://teisha-ba.jp/
公式Twitter:@Teishaba_movie
公式Instagram:@inochi_teishaba_movie

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