坂元裕二はなぜ別れた後を描く? 『最高の離婚』から『まめ夫』に続く“終わった恋”への希望

坂元裕二、なぜ『まめ夫』でも別れた後描く?

その恋に意味はあった、という肯定感

 坂元作品のラブストーリーには、大前提に「どんな恋でも人生を照らす光になる」という共通のメッセージを感じる。壊れていく恋を目の前に、誰もが傷つき、苦しみ「こんな恋に意味があったのか」と嘆きたい気持ちになるものだが、そんな瞬間さえも実は人生におけるハイライトとなることを気づかせてくれる。恋が始まった瞬間の輝き、2人で過ごした輝かしい時間は、その先の人生を照らし続けてくれるかけがえのない思い出になるということを。

 ましてや、人は恋をするとカッコつけてカッコ悪くなるもの。ときには、決して褒められないことをしてしまうこともある。絶対に、他の人には言えない行動をしてしまうことだってある。でも、そんな恋をしている瞬間が、人生で最もエネルギッシュだったりもする。『スイッチ』にもあったように、カップルとはそんな「秘密にしておきたい自分」を共有しているある意味「共犯関係」と言えるのだ。そう考えると、恋が終わっても、お互いの大きな秘密を守っていくという意味では、軽くはない恋の置き土産を抱えて私たちは生きているのだ。

 日本の離婚率は約35%と決して他人事ではない数字。一方で、初恋を実らせて結婚したなんて話は伝説クラスだ。もはや、「この恋はいつか終わるものだ」と心構えておくべきものなのかもしれない。だが、それでも「この恋は永遠に続く」と夢を見たくなるのが恋。だからこそ、いつかその恋という夢が破れたとしても、その夢そのものを見ることができた自分を肯定してくれる作品を求めてしまうのかもしれない。

別れは、自分を愛するタイミング

 案外、「なぜその人を好きになったのか」と聞かれて、その恋の始まった理由を説明するのは難しい。趣味が合うから、話が尽きないから、容姿が好みだったから……と、それっぽく挙げてみても「では、同じ趣味を持っている人、同じ話題で盛り上がれる人、同じ容姿の人となら恋に落ちるのか」と問われたら、やっぱり何か違う気がする。

 だが、恋が終わるのには明確な理由がある。生活する上で大事にしたいと思っているものが違う、歩もうとしている方向が違う、責任の感じ方が違う……。ときには、「好き」になった要素と思われるものたちはそのままなのに、どうしても相容れない「違い」によって別れを選択することもあるから、実にややこしい。

 しかし、そんな別れの理由にこそ、自分を自分で愛する要素が潜んでいるものだ。坂元作品では、度々、面倒くさい性格のキャラクターが登場する。その人と生活を共にするのはきっと大変だろう。だが、その面倒くささが“その人らしさ”でもあり、その面倒くささゆえに愛すべきキャラクターとも映る。

 だから、人が「別れ」を決断するときは、何を大切に生きていきたいのかが最もハッキリする瞬間なのだ。最も自分自身を愛しているタイミングといえるかもしれない。別れを選択した瞬間に、元パートナーを愛しく思えるのも、自分で自分を認めて余裕が生まれたからと考えたら納得だ。

 坂元作品ではカップルが別れた後のほうが、よりお互いを理解して、寄り添っていくというシニカルな展開も少なくない。でも、それこそが人間の本質的な部分なのだろう。自分のことを愛することができて、人を愛することができるのだから。

 「人を好きになった」という恋そのものにも意味があるし、「自分を愛することができた」という別れそのものにも意味を持たせてくれる。そして、また、いつか人を、そして自分を愛する出会いに恵まれたときには、決して臆病にならなくていいのだ。

 そんなエールを坂元裕二のラブストーリーから感じることができる。きっと最新作もまた、私たちに人を好きになる楽しみを、また自分を大事にする大切さも気付かされてくれることだろう。そんな愛しい時間を楽しみにしながら、オンエアを待ちたいと思う。

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、4月13日(火)スタート 毎週火曜21:00〜放送
※初回15分拡大
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

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