フランシス・マクドーマンドはなぜ“特別”なのか 『ノマドランド』での新境地を読む

フランシス・マクドーマンドはなぜ“特別”なのか 『ノマドランド』での新境地を読む

 フランシス・マクドーマンドが、『ノマドランド』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされています。

 筆者は予備知識なしで『ノマドランド』を鑑賞したのですが、マクドーマンドの女優オーラを完全に消し去ったノマド然たる風貌は、『モンスター』で美貌を完全封印したシャーリーズ・セロンの変貌以来の衝撃でした。

 化粧っ気のないすっぴん顔に、ブロードライする時間と電気代節約のためと容易に想像できるお手入れされていない短髪ヘア、重労働が多い短期バイトに実際に身を置いて酷使した腰や肩……。外見だけでなく、立居振る舞いまでが、定住先がなく彷徨うノマドそのもの。

 同氏がどれほどノマドっぽかったのかというと、『ノマドランド』の撮影中に、小売店のTargetで仕事のオファーを受けたほどです(参考:Frances McDormand was offered a job at Target while shooting Nomadland)。

 そんな風にノマドになりきったフランシス・マクドーマンドですが、果たして第93回アカデミー賞は主演女優賞受賞となるのでしょうか? 今回の記事では、俳優フランシス・マクドーマンドについて掘り下げていきたいと思います。

受賞歴をリスト化したウィキページができるフランシス・マクドーマンド

 フランシス・マクドーマンドは、1996年の超ブラックコメディ『ファーゴ』と、2017年の『スリー・ビルボード』の2作でアカデミー賞主演女優賞を2回受賞済み。その他でも何度かノミネートされているので、いわば、アカデミー賞の常連さん。

 しかも、アカデミー賞、エミー賞、トニー賞という演劇の三冠王を達成した人物でもあり、両手で足りないほどの受賞/ノミネート歴なので、英語Wikipediaでは、受賞/ノミネート歴だけに特化したページが作られています(参考:List of awards and nominations received by Frances McDormand – Wikipedia)。

 そんな同氏を一言で説明するなら、気難しく、頑固で、神経質な演技が得意な人物でしょうか。ただ、そういった感情を表現することが一際上手いだけであって、温かみや人の経験からくる複雑な心情を演じることも得意。つまり、非常に演技幅が広い俳優なのです。

 ただ演技幅が広いだけなら、イケメンから知的障害者まで演じられるレオナルド・ディカプリオや、前述のシャーリーズ・セロンも同じです。

 では、なぜマクドーマンドがそこまで特別なのでしょうか?

感情のパラメーターを持つ

 フランシス・マクドーマンドの演技は、まるで感情のパラメーターを操作しているかのようです。

 例えば、妊娠中の警察署署長を演じた『ファーゴ』では、スイッチを切るように笑顔から困惑や拒絶顔へとシフトさせますし、『あの頃ペニー・レインと』で演じた教育ママは、笑顔から支配的で威圧的な表情に秒で豹変させています。

 また、竹中直人が得意とする「笑いながら怒る」のように、相反する感情をひとつの表情の中に込めたり、受け取る人によって微妙に感じ方の違う曖昧な表情を作ることもあります。

 パラメーター演技がもっともわかりやすく印象的だったのは、『スリー・ビルボード』でアカデミー賞主演女優賞を受賞した時のスピーチではないでしょうか。

Frances McDormand wins Best Actress

 マクドーマンドは壇上に上がると、緊張を隠せない様子で引き攣った笑顔を作りながら「過呼吸になりそう」と戯けてつつ、徐々にトーンを落として「あることを伝えに来ました」と表情と声色を変化させています。つまみを動かすかのようにガミースマイルからシリアス顔へ変わっていく様は、時計仕掛けのようでした。

 このように表情と感情を自在に操ることができるために、感情の移り変わりが激しい不安定な人物や、友好的に見えながらも強情で人の意見には耳を貸さない人物の演技が巧みなのです。

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