『天国と地獄』に松坂桃李主演ドラマも 令和の時代に再び流行の“入れ替わり”ストーリー
綾瀬はるか演じる捜査一課の刑事と高橋一生演じる連続殺人鬼の人格が入れ替わり、この1月クールに話題を集めたTBS系列日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』。そして4月からはテレビ朝日系金曜ナイトドラマの枠で、麻生久美子の魂が井浦新に入るという松坂桃李主演のラブコメディ『あのときキスしておけば』が放送。“入れ替わり”という、トリッキーながらどこか古典的な発想が、この令和の時代にふたたび脚光を浴びつつあるようだ。
もちろん“入れ替わり”といえば、ある程度の年代にとっては大林宣彦監督の『転校生』、もっと若い世代にとっては新海誠監督の『君の名は。』のイメージがこの上なく強くあるだろう。前述の『天国と地獄』でも、“階段落ち”によって人格が入れ替わってしまう『転校生』へのオマージュとも取れる描写が登場したように、やはり日本における“入れ替わり”の元祖は『転校生』(ないしはその原作となった児童文学『おれがあいつであいつがおれで』)と考えても良さそうだ。
このジャンルには、絶対的な鉄則が存在している。それは入れ替わる二者の立場が明確に正反対であることだ。『転校生』では中学生の男女が入れ替わる。思春期の男女にとって、それがどれだけの一大事なのか計り知れないものがあろう。『君の名は。』では東京に暮らす男子高校生と、飛騨の小さな町に暮らす女子高生が入れ替わり、『天国と地獄』では刑事と殺人鬼。また同種の作品を掘り起こしていけば『パパとムスメの7日間』(TBS系)や『民王』(テレビ朝日系)、70年代に製作された『フリーキー・フライデー』と、元来“わかりあえない”関係の代表格である親と子供の入れ替わりというのも定番シチュエーションだ。たしかにこのジャンルの走りであるトーマス・アンスティの小説『あべこべ』も、寄宿学校に戻りたがらない息子と実業家の父が魔法によって入れ替わる物語であった。
“わかりあえない”正反対な者同士が入れ替わると何が発生するか。よく言われる「相手の立場に立って」という言葉通り、相手が何を考えて生きてきたのか、どんな境遇に置かれていたのかを直接身をもって知ることへとつながり、最終的には相互理解という結末へと導かれやすい。しかも『転校生』に代表されるような性別を超えての入れ替わりとなれば、物語上のひとつのテーマとして性差が浮かび上がることとなり、必然的に現代社会の重要なテーマに触れることも可能となる。いま再びこのジャンルが注目を集めることも、それを考えれば納得できる。