『シン・エヴァンゲリオン』は庵野秀明自身との決別だった 『プロフェッショナル』を観て

『シン・エヴァンゲリオン』は庵野秀明自身との決別だった 『プロフェッショナル』を観て

 「警告」という文字が画面を埋め尽くしたあと、スマホで動画を撮りながら駅(宇部新川駅だ!)の階段を全速力で駆け上がってゆく男性の姿を追うカメラ。そこに重ねられる「密着を始めて間もなく、私たちは悟った。この男に、安易に手を出すべきではなかったと」というナレーション。すでに多くの人が話題にしているように、3月22日に放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル』(NHK総合)は、「庵野秀明 1214日の記録」というサブタイトルの通り、現在大ヒット公開中の映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の制作過程を追った唯一の映像としてはもとより、同作で庵野監督がやろうとしたことが直接監督本人の口から明かされる、実に興味深いドキュメンタリー番組となっていた。

 緒方恵美(碇シンジ役)や三石琴乃(葛城ミサト役)といった、テレビシリーズから長年にわたって『エヴァ』に関わってきた声優たち、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー、宮崎駿監督、さらには公私にわたるパートナーである漫画家・安野モヨコといった縁の深い人々が、それぞれの言葉で語る「庵野秀明」像も相当面白かったけれど、個人的に最も興味深かったのは、庵野監督自身の「作品論」と制作の現場風景であった。ここでは主にその「作品論」に関する発言を拾いながら、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』という映画が、いかに前代未聞なやり方で生み出された稀有なアニメ映画であるのかを、改めて検証することにしたい。

 今から約3年半前の2017年の9月から始まったという今回の密着取材。「分からない」「思い入れはない」といった人を煙に巻くような発言や得体の知れない笑みなど、庵野監督の泰然としつつも捉えどころのないキャラクターに当初戸惑い気味だった番組スタッフは、やがて彼が本作で「アニメの作り方を大きく変えようとしている」ことに気づく。カメラに向かって「設計図は最小限なものにしたい」「設計図の作り方を頭の中で作りたくない」と語る庵野監督。平たく言うならば、通常のアニメ制作では欠くことができない設計図=「画コンテ」を、本作では作らないというのだ。その真意は、続けて監督が語った「(画コンテから始めると)自分が考えてる以上のものは出てこない」「自分のイメージどおりに作ったって、面白いことは何もない」といった発言の中にあるのだろう。

 それは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公式パンフレットに掲載されたインタビューで、鶴巻和哉監督が語っていたことにも一致する。「まず、庵野さんからは『今までとは違う作り方をしたい』と提案がありました。通常の『画コンテを描いてレイアウトを決めて、という作り方ではない方法を試したい』と言われて、大変だけど面白そうだなと」。鶴巻監督は、それを庵野が総監督を務めて大ヒットを記録した映画『シン・ゴジラ』(2016年)の経験から出てきたアイデアではないかと推測する。画コンテで指示されたカットを積み上げながらシーンを作るのではなく、特撮映画のようにひとつのシーンを複数のアングルで撮影しながら、それを編集で取捨選択しながら作り上げていくというやり方だ。しかし、アニメーションで、そんなことが可能なのだろうか?

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