迫田孝也、三谷幸喜作品で培った実力を発揮 『天国と地獄』東朔也役で体現した世の不条理

迫田孝也、東朔也役で放った輝き

 湯浅が登場した時に、物語の中盤以降、ここまで重要なカギを握る存在になると予想した人がいただろうか。過去を憂う空気は醸していたものの、まさか湯浅が日高の生き別れの兄で、おそらく連続猟奇殺人事件の犯人、東朔也(=二代目クウシュウゴウ)であったとは。

 この複雑な役に迫田孝也。絶妙なキャスティング。

 O.A.開始当初は「柄本佑が普通にいい人のわけはない」「溝端君の抜けた感じが逆に怪しい」と、俳優から真犯人を読み解こうとした視聴者を見事にかわし、回が進むごとに新たなカードを切っていく迫田の芝居は絶妙だった。

 15分早く生まれたことで、まじめに生きても光を発することができない人生を歩むことになった東朔也。自らの命の灯があとわずかで消えることを知った彼は、自死した十和田元(田口浩正)から「誰でもない存在=クウシュウゴウ」を引き継ぎ、世の中に復讐をするように殺人を犯していく。

 が、東朔也は本当に「誰でもない存在」だったのだろうか。コ・アースで日高はすぐに彼の名札に目をとめ「東さん」と呼びかけた。日高は顔の見えない清掃業者としてではなく、最初から1人の人間として東と対峙したのだ。そこに彼が気づいていたら。そして生き別れた兄弟と分かった時に、2人が違う道を選択していたら……。人生で「たられば」を語るのは愚かなことかもしれないが、東朔也の「月」にならざるを得なかった生き方を見ているとさまざまな「もし」が浮かんでしまう。

 最終回、すべての謎が解かれ、私たちの心はクリアになるのだろうか。それとも、迫田孝也が渾身の演技で魅せた東朔也という人物の存在を通し、この世の不条理をふたたび見つめることになるのか。

 笑っても泣いても、あと1話だ。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
TBS系にて、 毎週日曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、高橋一生、柄本佑、溝端淳平、中村ゆり、迫田孝也、林泰文、野間口徹、吉見一豊、馬場徹、谷恭輔、岸井ゆきの、木場勝己、北村一輝
脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
製作著作:TBS
(c)TBS

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる