明日海りお、大川良太郎、松本妃代、坂口涼太郎 『おちょやん』鶴亀家庭劇団員たちの魅力

『おちょやん』鶴亀家庭劇団員たちの魅力

 千代(杉咲花)が一平(成田凌)と結婚して3年が経った昭和7年。『おちょやん』(NHK総合)の第14週は、大山社長(中村鴈治郎)が人気のある万太郎一座と鶴亀家庭劇とを一騎打ちさせ、客の数が多かったほうの芝居を喜劇王チャップリンに見てもらうと言い出したことから起こる騒動を描いた。

 一平の二代目天海天海襲名披露で盛り上がった鶴亀家庭劇。その後も順調に興行を続けていたが、万太郎一座が相手となると千之助(星田英利)が冷静でいられなくなり、いつにも増して暴走する。今回、千之助と万太郎の20年来の確執にスポットを当てたことで、劇団員それぞれの苦悩と成長がくっきりと浮かび上がる週となった。個性的な役者たちの中でもルリ子(明日海りお)、漆原(大川良太郎)、香里(松本妃代)、百久利(坂口涼太郎)の魅力、その変化に注目したい。

高峰ルリ子(明日海りお)

 高峰ルリ子(明日海りお)は、もともと新派の名門劇団「花菱団」で主役を務めるほどの女優だった。後から入ってきた若い女優に劇団の主宰者だった恋人も主役の座も奪われたうえ、劇団にいられなくなるように仕向けられた過去がある。それでも舞台に立つための努力を続けてきた人で、プライドの高さは芝居への愛情の証といえる。

 完璧主義のルリ子の凛とした佇まい、舞台シーンで魅せる美しい所作はさすがとしか言いようがない。約5年半にわたり、宝塚歌劇団花組でトップスターを務めた明日海りおの舞台への思いが、そのままルリ子の真摯な態度につながるようだ。

 いくら万太郎に対する敵対心で頭に血が上っているとはいえ、そんなルリ子に対して女優は見せ物だと暴言を吐く千之助。これが鶴亀家庭劇結成直後、千代が自分から恋人と主役の座を奪った若い女優に似ていると目の敵にしていた頃のルリ子なら、「もうここにはいられないわ」と有無を言わさず飛び出していただろう。そして、千之助が頭を下げて詫びたとしても「しょうがないわね。今回だけは許してあげる」などと簡単には許さなかったはず。

 劇団の仲間と過ごすうちにルリ子の心境にも変化があったことが分かる。舞台上のアドリブへの対応力が増せば増すほど心も鍛えられ、やわらかい気持ちで仲間に接している様子が伝わる。女優としての誇りを保ちながら柔軟な心を手に入れたルリ子の舞台シーンをもっと観たいという声は多い。

漆原要二郎(大川良太郎)

 大川良太郎が演じる漆原要二郎は、居酒屋状態の千代と一平の家にいるときもスーツ姿で男前。鶴亀家庭劇の一員となることをきっかけに女形から一転、男の色気漂う役者となった。一平から「女形は必要ない」と言われ、自分を見失うほど衝撃を受けた漆原。ずっと女形として活躍し、今後もその道で生きていくつもりだった彼にはどうしても納得ができなかったのだ。

 実際、千之助が女優を見下すような発言をしていたが、万太郎一座には女優が1人もいない。女優は存在そのものが珍しく、千代がまだ「岡安」のお茶子をしていた頃に、漆原がぎっくり腰で舞台に出られなくなったことで急遽、千代が舞台に立ったことがあった。

 千之助が女優の代わりに漆原が女形になればいいと独善的に言い募ると、漆原も一平も血相を変えたが、漆原にとって女形でなくなることは、それまでのキャリアを切り捨てたということ。鶴亀家庭劇は、一番大切な存在に切り捨てられた役者の集まりだ。千代は父親、一平は母親、千之助は兄のような万太郎に、ルリ子は恋人に……。それぞれが失いたくない相手に裏切られる痛みを知っている。

 一平は女形を必要としないと残酷な宣言をしたことで自分も漆原にあえて殴られて痛みを味わった。それを知っているのに漆原に女形になれと言う千之助はやはり万太郎と勝負できる状態ではなかったのだ。

 ダンディな漆原を演じる大川良太郎は生粋の舞台人。7歳で初舞台を踏み、大衆演劇の役者として育っている。第70回放送の舞台「丘の一本杉」では棟梁の源造役だったが、帽子からさりげなくのぞく前髪までも色っぽいと話題だった。女形を経験し、その過去を捨てたからこそ滲む魅力を手に入れた。

 「やっぱり二日酔いには千代ちゃんが作る味噌汁に限るわ」とつぶやき、劇団の男たちに媚は売らないと宣言した千代が「いつも押しかけて千代ちゃんには悪いなぁ思てんねんで。堪忍な」と思わず千代がビールを注ぎたくなるような言葉を発するなど、優しい声にも魅了される。

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