明日海りお、大川良太郎、松本妃代、坂口涼太郎 『おちょやん』鶴亀家庭劇団員たちの魅力

『おちょやん』鶴亀家庭劇団員たちの魅力

石田香里(松本妃代)

 香里は「鶴亀歌劇団」出身で歌って踊れることをしきりにアピールしていたが、最近はブロマイドの売り上げも絶好調。サラサラに揃えた前髪もキュートで、大山社長が綺麗どころとして推すのも納得の美貌の持ち主だ。

 ただ、その自慢の美貌と人気を喜劇の舞台に必要ないと千之助に否定されたことで怒りが爆発。間に入った千代にも当たり、座長の妻となった千代に対する嫉妬を露呈する。

 以前、ルリ子の過去の噂を鶴亀家庭劇の劇団員が知ったとき、香里は「好きやった人から後ろ指さされるのが一番キツい。それやったらはなから嫌われてた方が一番マシや」とルリ子に共感していた。自身も昔の仲間に嫉妬され、居場所を失った過去を持つ。

 嫉妬は他人と比較することで生まれる感情。アイドル的存在として注目を浴びてきた香里は、認められたいという気持ちが原動力になっているところがある。一平が岡安から引っ越したときに千代が新居に向かうと香里の姿があった。モテる一平に惹かれる気持ちもあっただろうが、それよりも座長に気に入ってもらいたいという思いが香里に少なからずあったのではないだろうか。

 千代を密かにライバル視し、千代は座長の妻だから安泰だという香里。「ほんまに座長のこと好きなんか。そないなふうには見えへんけど」という言葉も千代が座長に取り入っていると思いたい気持ちの表れのようだ。

 美貌も人気もはかないもの。どうにか芝居で認めてもらいたいという勝気な香里の内面を松本紀代は繊細に演じている。松本は、ドラマ、映画、舞台で活躍ほか、ギャラリーで個展を開催するなど絵画アーティストとしても活動の幅を広げている。

 千之助の女優を否定する態度は許せないものの、千代に渡された台本を読み「こないな台本見せられたら、やりたなってまうやろ」と素直に劇団に戻ってきた香里。芝居を続けることで嫉妬や怒り、自分の中の負の感情と向き合わざるを得ないが、それでも役者を続けていくという香里にはこれからさらなる変化と成長がありそうだ。

百久利(坂口涼太郎)

 千之助にとって万太郎が兄のような存在ならば、百久利にとって千之助は師匠であり、兄であり、仲間であり、親のような存在でもある。本来は徳利(大塚宣幸)の弟分だが、千之助の弟子を自称している。鶴亀家庭劇の顔合わせの頃、千之助が劇団に入るのを拒んでいるとその横にはつねに千之助の顔色を伺う百久利がいた。千之助の芸に感銘を受けて役者になった百久利は、芸に心酔するあまり、何よりも千之助の感情を優先する。

 しかし、鶴亀家庭劇の仲間と芝居をするうちに百久利にも変化が起きていた。千之助が万太郎を意識しすぎて書いた台本に対してはっきり意見を言う百久利。「今までかて確かにむちゃくちゃなとこもあったけど、気持ちこもってておもろかった。こないなんでは万太郎には到底勝てへんわ」とずっと千之助と一緒にいたからこその言葉。頑固な千之助にも響く切実な思いがあった。

 百久利を演じる坂口涼太郎はNHK連続テレビ小説には『なつぞら』で新人アニメーター中島役で登場したほか、『エール』では音(二階堂ふみ)が姉の代わりにお見合いをした相手、野島夏彦として出演。映画『ちはやふる』シリーズ、ドラマ『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)シリーズでも個性を発揮している。

 第14週のタイトル「兄弟喧嘩」は、大山社長が期待していた万太郎と千之助の派手な兄弟喧嘩のことだが、初めて大切な存在である千之助に意見して殴られた百久利と千之助の兄弟喧嘩のことでもある。千之助のことを尊敬しつつ、周囲の言葉にも耳を傾け、仲間とも信頼関係を築いている百久利。その成長と変化がまぶしく、強い印象を残した。

■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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