『あなたのそばで明日が笑う』が描いた“過去と未来”の希望 三浦直之の脚本を読み解く

『あなたのそばで明日が笑う』が描いた希望

 これは「人と人がどうやったら寄り添えるのか」を描いた物語でもある。震災で大切な人を失った蒼と、震災を知らない瑛希。さらに震災当時3歳だったために震災以前の記憶がほとんどない六太もいる。東日本大震災から10年の年月が経ったからこそ、当事者、非当事者間だけでなく、世代によって、浅子の言う「前に進む速度」の個人差によって、震災の捉え方、向き合い方はより大きく異なり、多くの分断が生じている。

 つい何も知らないのに知っている気になって石巻を語ろうとする瑛希に向かって、「この街のことを知っているみたいに話さないで」と言う蒼。それに対して、瑛希は、懸命に街のこと・蒼のことを「知ろうとすること」で返すのだった。街の模型を作り、街を実際に歩き写真を撮る。蒼の案内で蒼が歩いてきた道を歩く。かつて蒼と高臣が一緒に過ごした本屋の跡地に寝転がって思いを馳せる。そうやって「自分が知らないこの街のこと、この街で暮らす人のことを想像する」ことで彼は彼女を、彼女が住む街を知ろうとする。

 同じく震災前の記憶がほとんどない六太と、「この街にしかない物語を撮りたいけどこの街のことを全然知らない」もどかしさを抱えている転校生の風花(佐藤ひなた)が、「この街の映画を撮る」ということを通してやろうとしたことも、同じである。その人自身ではないから、当事者ではないから「わからない」で終わるのではなく、知りたいと思うこと。一緒に想像すること。一緒に歩くこと。

 そうやって彼らが、頑なになりかけた蒼の心にそっとノックし続けたことで、彼女はゆっくりと心を開き、「後ろを向きながら前に進む」ことができたのだった。

 そんな、誰かが誰かのために、その人の人生、失われてしまった風景、もしくはあったかもしれない人生を想像する、優しくも切ない世界を、もう今はない映画館で、主役じゃない人たちの物語を妄想するのが好きで、身を乗り出してスクリーンの端の方ばかり見てしまう高臣のふわっとした笑顔が、柔らかく包み込んでいた。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。
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■作品情報
『あなたのそばで明日が笑う』
NHK+にて、3月13日(土)20:43まで配信中
作:三浦直之
出演:綾瀬はるか、池松壮亮、土村芳、二宮慶多、阿川佐和子、高良健吾ほか
制作統括:磯智明
プロデューサー:北野拓
演出:田中正
主題歌:RADWIMPS「かくれんぼ」
音楽:菅野よう子
写真提供=NHK

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