成田凌、杉咲花を輝かせる“受け”の芝居 『おちょやん』一平のにじみ出る優しさ
9歳のときに出会い、十数年経った今も千代(杉咲花)と一平(成田凌)は、お互いの人生の一番深い部分でつながっていた。千代が家族のことでつらいとき、誰よりもそばにいて一緒に問題に対峙してきたのは一平だった。
『おちょやん』(NHK総合)第12週は、鶴亀家庭劇の次の公演で千代と一平の2人芝居が演目として決まったため、千代がモデルのみつえ(東野絢香)と福助(井上拓哉)を観察しているところから始まった。商売敵の娘、若子と恋に落ちた若旦那が若子の気持ちを確かめるために嘘の心中を持ちかける色恋話。
好きな人となら心中してもいいという気持ちは分からないが、同じくらい大切なものはあるという千代。「弟のヨシヲや」と曇りのない目を一平に向ける。「もしヨシヲに一緒に死んでくれ言われたら、うちは死ねる」と言い、そんな気持ちで若子を演じてみると一平に話していた。
時代は昭和4年2月。検閲が厳しく、2人が抱き合うシーンは修正が入り、手を握ることになった。この芝居で伝えたいのは理屈や秩序を超えたところにある人間の本性、衝動的欲望だと劇団の仲間に熱く語る一平。舞台初日の幕が開き、物語が進んで千代がまっすぐな目で「生まれ変わったら、今度こそ一緒になりましょな」と毒入り酒を飲むと、その演技に引き込まれるように一平が突然キスをした。「もう離さへんで」という台詞は一平の本心からの響きのようでもあった。
いくら迫真の演技だとしても、検閲の警官によってその日の公演は即中止。抱き合うのがダメなので、キスは当然NGだと頭では分かっていても止められなかった。これこそ一平のやりたかった芝居ではあるが、公演中止だけは避けたいところ。
警官に対しても「つらいことも恥ずかしいことも、目ぇそらさんとみんな芝居にする。そないしたら悲しいけど、どこか滑稽な人の生きざまいうもんが見えてくんねん。俺はそないな新しい喜劇を作りたいんや」と間違いは認めたくなかったものの、芝居を続けるためには頭を下げるしかない。
そして、千代と一平の接吻騒動直後「ようも姉やんを傷もんにしてくれたな」とヨシヲ(倉悠貴)が突然現れた。その1カ月くらい前から道頓堀では不審火があり、どうやらヨシヲも千代の周辺の様子を伺っていたようだが、千代の噂を聞いて思わず飛び出さずにはいられなかったのだろう。
千代は大切な存在で傷ついてほしくない……というのがヨシヲの心の深い部分にある想いの発露。一平は、殴られたときにヨシヲのシャツからのぞく刺青だけでなく、千代への思いにも気づいたではないだろうか。だから、家族に戻るのは難しくても、千代の気持ちを伝えずにはいられなかったに違いない。
ヨシヲは理想的な弟のように見えたが、再会の喜びから一転。ヨシヲは「えびす座を燃やす」と脅迫し、鶴亀を潰そうとする組織の手伝いをしていた。父テルヲ(トータス松本)に捨てられるように奉公に出された千代を恨むしかないほど荒み、悪い仲間を頼って生きてきたのだった。
千代に対しても全く心を開こうとしないヨシヲに対して、一平は「この世の中で、おまえのこと誰よりも思てたんは間違いのう千代や」と言い、いつも「ヨシヲ、ヨシヲ」と大切に思っていたこと、ヨシヲのためなら死ねるとまで千代にとって大きな存在であることを伝えた。千代に会い、一平の言葉に揺り動かされても、簡単には千代のもとに戻れないヨシヲの立場も汲み取ったうえで千代を見守り続ける一平。分かりやすいヒーローではないけれど、成田凌が見せる優しさが沁みる一週間だった。