“アノニマス”はなぜ制裁を続けるのか!? 現実と地続きに存在する“救い”と“絶望”の連鎖

『アノニマス』ネットに蔓延る私刑

「疲弊するからといって、排除していいんでしょうか。ちょっとしたことがきっかけで社会と接点をなくしちゃう人っていると思うんです」

 ネットの発展は対面のコミュニティとは別に、新たな世界を私たちに提供してくれた。ハッシュタグひとつで、全く知らなかった人が同じ話題でつながることができる世界。日常で感じた痛みを分かち合ったり、社会に対する怒りで結束したり、誰かの喜びをみんなで祝福したり……匿名だからこそ心置きなく交わされる本音たちに、むしろそちらの世界のほうが強く結びつきを感じられるという人も。

 目の前の現実が苦しくて、生きにくくて、辛いと思ったときに、「ここにいていいんだ」と思える居場所を見つけたときの気持ちを、きっと人々は「救われた」と表現するのだろう。しかし、逆にそうして救いを求めた世界にさえ拒絶されたとしたら。私たちは、さらに深い孤独の深淵に沈んでしまいそうだ。『アノニマス ~警視庁“指殺人“対策室~』(テレビ東京系)第5話。サブタイトルは「奪われた居場所」だった。

自分を受け入れてくれる場所を探して

 今回、『指対』に捜査依頼を寄せたのは、チャンネル登録者数300万人という人気動画配信者・さわてぃ(橋本淳)。元オンラインサロンメンバーの星野(萩原利久)からSNSに悪質なコメントを大量に投稿されて困っているというのだ。SNS上に残る星野の書き込みは明らかに脅迫で、早速捜査を開始することになった万丞(香取慎吾)と碓井(関水渚)。

 調べ始めると星野の情報が驚くほど少ない。それは、職場をはじめとしたリアルな社会生活においても、そしてネットの世界においても、人との関わりがほとんどないためだった。私たちが「生きている」と言えるのは、人とのつながりの更新履歴にほかならないのだと、星野の生活ぶりから突きつけられる。

 脅迫の加害者であったはずの星野。しかし調べるうちに、さわてぃによっていじめの被害を受けていたことが判明する。もともとは、サロン内に居場所を築いていた星野だったが、それを気に入らないさわてぃによって、一方的に奪われてしまったのだ。

 そんな星野の素性を知り、碓井はかつて自殺してしまった友人・理恵の存在を重ねずにはいられなかった。さわてぃに星野への謝罪を促したことが、動画で「警察に強要された」と視聴者に訴えられてしまい炎上状態になってしまう。

 碓井は、かねてより正義感の強さゆえに暴走しがちなところがあった。それは、目の前で友人を亡くしたことをきっかけに、助けを求める人にとって自分が最後につながった命綱かもしれないという緊張感を持っているからかもしれない。

 「あなたの居場所は必ずあります」とは、碓井が繰り返し星野に伝えていた言葉だ。しかし、現実で職場に馴染めず、友と呼べる人もいない、そしてようやく見つけたネットの居場所も取り上げられた星野にとって、それはキレイごとにしか聞こえなかったのではないか。「どこかに必ずある」という言葉よりも、「ここにあるよ」と言ってくれる人そのものが、星野には必要だったのだ。

 そう、星野が利用する図書館の司書・山名(鞘師里保)との出会いが、もう少し早ければ。あの電話に出ることができれば。あの会場にもっと早く向かうことができれば……。ほんの少しだけタイミングが変われば、この世界のやさしさに気づけたかもしれない。

 それは星野だけではなくきっと今を生きる私たちにも言えるのだろう。沖に流されてしまったとき、もがくよりも大きく息を吸って落ち着いて浮遊するほうが助かる確率が高いように。世知辛い現実や、傷つく言葉に追い込まれて、孤独の海に溺れそうになったら、助けが来るのを信じて深く呼吸をしよう。

 それは逆に、今この瞬間もその手を差し伸べられるのを待っている人がいるということにもなる。やはり碓井の言うようにキレイごとに聞こえるかもしれないが、どうか諦めないでほしいと願わずにはいられない。まだ引き返せる。誰かと必ず何かでつながることができるから、と。

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