『おちょやん』は朝ドラ版『ガラスの仮面』? 明日海りお×若村麻由美の再共演を願って

『おちょやん』は『ガラスの仮面』?

 じつはこれ、今でも俳優が役を演じる際によく使われる手法。ただ、『おちょやん』現時点での時代設定=昭和初期には、まだ“型”で演じる演劇が一般的で、役の内面と自分の内面とを繋げて演技するという考え方はさほど浸透していなかった。いわば当時のニュースタイルだ。

 そして迎えた「手違い話」千秋楽。

 相変わらず好き勝手に設定を変える千之助。とうとうルリ子演じる自分の妻が、手代(てだい)と浮気をしていると言い出す始末。一瞬、戸惑うルリ子だが、千代の「しっかりしておくれやす!」とのアドリブで我に返って語りだす。

「うちは誰とも浮気なんてしてへん、首絞めたりもしてへん。誰に何を言われても構わへんけど、あなたにだけは信じてほしかった……彦一郎さん!」

 彦一郎とは、若い女優に騙されてルリ子を捨てた元彼の名前。ギリギリまで追い詰められた彼女の口から、ついポロっと出てしまったのである。すかさずフォローに入った千代の手腕で客席は爆笑。ルリ子の陰での頑張りを誰よりも知る菊(いしのようこ)がほろっと流す涙も印象的だった。

 『おちょやん』では、千代が女優を目指した時から、ちょいちょいあの作品のオマージュが登場する。そう、演劇漫画の金字塔『ガラスの仮面』だ。

 第10週でいえば「手違い話」初日に千代のもとに届いた花かごは、正体を明かさず主人公に特別なバラを贈り続ける「紫のバラの人」エピソードだし、芝居に迷った千代が井戸の水に顔をつけ「うおおおおおー!」と覚醒するのは漫画内でも取り上げられた『奇跡の人』を想起させる。さらに、他を圧する存在感で芝居の本質を語る千鳥からは、主人公の師・月影先生の姿も見える。

 役を深めて演じることの楽しさを改めて知った千代やルリ子たち。特にルリ子の“本当の感情”が呼び起こした“笑い”だけでない喜劇は、今後の劇団の方向性に大きな影響を与えると感じる。

 ただ今週、少し残念だったのは、千鳥とルリ子の絡みがほぼなかったこと。同じように不器用で完璧主義者、努力の過程を他者に見せることを良しとせず、人に頼れない性格。さらに配偶者や婚約者からありえない裏切り方をされるなど、まるで双子のように共通項が多いふたりの女優が、オフステージでどんな会話を交わすのか、じっくり見てみたかった。

 このふたり、生涯の親友となるか、殺し合うほど反発し合うか、そのどちらかだと思うのだが、いつか共演する日は来るのだろうか。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる