バカリズム、『劇場版 殺意の道程』に込めた笑いの“フリ” 井浦新のシリアスさを巧みに起用
「お笑いでやっていることを、ドラマや映画のフィールドでやってみた」
――しかも、本作の場合、「一馬」と「満」のコンビに、途中から堀田真由さんと佐久間由衣さん演じるキャバクラ嬢が加わって……あの2人のお芝居も、すごく良かったですよね。
バカリズム:めちゃめちゃ良かったですよね。撮影していても、現場がちょっと楽しい雰囲気になっていました。最初の頃は、僕と井浦さんが車内で会話するシーンをずーっと撮っていたんですけど、そこにあの2人が入ってくると、現場が明るくなるんです。それは多分、観ている方々も同じで、単純に画面がパッと明るくなって新鮮な感じがすると思うし、楽しくなると思うんです。まあ、それによって、より緊張感がなくなったりもするんですけど(笑)。
――(笑)。ただ、あの2人を意外とあっさり受け入れてしまう、「一馬」と「満」の人の好さみたいなものも出ていて……。
バカリズム:そうですね。あの2人は、あんまり女の子の扱いに慣れてないから、普通にやさしくされたら、そのまま受け入れてしまうんですよ。
――そして、そんな2人が加わったことによって、なぜか青春映画のようなテイストも、だんだんと出てきて……。
バカリズム:ははは、確かに青春っぽいですよね。やっぱり大人になると、なかなか仕事以外のことで、誰かと協力して「ああしよう」「こうしよう」と考えることはあまりないじゃないですか。この作品で2人が考えているのは「殺人計画」ですけど、ちょっと部活っぽいところがあるような気もしていて、そういうところが、ちょっと青春と重なるのかもしれないですね。そこに女子が入ってきて……でも、そこで特に恋愛関係になるわけでもなく、普通にクラスメイトぐらいの距離感で、物語が進んでいくから。
――占いのシーン、すごいですよね。だいぶ長いシーンですけど、これはもう青春映画じゃないかと。
バカリズム:(笑)。ドラマ版では、丸まる一回、占いの回だったんです。WOWOWさんのドラマでも、多分初めてのことだったと思います。
――車のシーンも多いですし、挙句の果てには4人で海に行ったりして……これはもう、ある種のロードムービーなのではないかと。海のシーンは、すごく映画っぽいシーンでしたよね。
バカリズム:海のシーンは、特にそうかもしれないですね。撮影中もそういう感覚がありました。あの日はすごい暑くて、しんどかったんですけど、今にして思えば、すごい楽しかったな。
――今回の撮影は、コロナ禍の状況下で行われたんですよね。
バカリズム:そうですね。みんなマスクをして、スタッフも含めて大変だったと思います。フェイスシールドをつけながらリハーサルをしたり、すごく気をつけながらやっていったので、普通の撮影よりもかなり大変でしたね。
――だからこそ、海のシーンの解放感みたいなものが、役者たちの表情からも出ているような気がして……あそこはすごく抜けの良いシーンに仕上がっていますよね。
バカリズム:景色もすごい良くて。あそこで恋愛に寄せちゃうと、あのシーンの意味もちょっと変わってくると思うんです。歳も離れているので、そこでくっつけちゃうと、ちょっと気持ち悪いというか、何やってんだってなるから。やっぱり、あれぐらいの距離感がバランス的に、ちょうど良かったと思うんです。
――確かに。あと、本作のような、オフビートな会話を中心に淡々と物事が進んでいくようなクライムコメディって、タランティーノ以降、アメリカなどではたくさん出てきたように思いますが、日本のコメディ映画というと、どうしてもドタバタを中心としたもの、あるいはラブコメが多いように思っていて。そのあたりを、バカリズムさんが一手に担っているような気がするところが、映画ファンとしても、非常に面白い現象だなと思っているのですが。
バカリズム:ホントですか(笑)。僕はそんなにたくさん映画を観てきたわけではないので、海外のことについてはわからないですけど、日本に関しては、確かにそうかもしれないですよね。ただ、僕の中全体的にリアルなものにしていけばいくほど、現実ぐらいリアルなものにすると、ちょっとしたことでも大きな事件に感じやすくなる感覚があって。全体をデフォルメし過ぎちゃうと、展開なり何なりをどんどん派手にしていかないと、観ているほうもドキドキできなくなるけど、僕らの日常生活って、割と他愛もないことで、ドキドキしたりビックリしたりする。そういうことの連続なので、意外と大きな事件がなくてもいいんじゃないかなというのが多分一貫してあるんです。
――なるほど。バカリズムさんのコント作品の面白さも、まさにそこにあるような気がします。しかし、そうやってお笑いの世界で積み上げてきたことを、脚本という形でドラマの世界に持ち込んで……それこそ『架空OL日記』で「向田邦子賞」を受賞されるなど、脚本の世界でも高い評価を受けているわけですが、そのあたりはバカリズムさん的には、どうなんですか?
バカリズム:どうなんですかね(笑)。僕は脚本の勉強もしていないし、ドラマや映画もそれほど観てこなかったので、あくまでも、お笑いでやっていることを、ドラマや映画のフィールドでやってみたら、意外と笑ってもらえたっていう感じなんですけど。
――ただ、今回の作品は、先ほど言ったように一本のストーリーラインがちゃんと通っていて……これを映画用に書き下ろしたら、また違う流れの作品になったのかなって。
バカリズム:それは多分違うでしょうね。このドラマの脚本を書いてから、もう結構時間が経っているので、僕もそういうことなら「あれもやりたい」「これもやりたい」って感じになると思うので。
――となると、バカリズムさんが書き下ろした映画作品というのも、是非観たいと思ってしまうのですが。
バカリズム:実はもう、映画は一本書いていて。5月公開予定の『地獄の花園』(監督:関和亮/主演:永野芽郁)の先にも一個、話があって、まだ書いている途中のものがあったりするので……それはそれぞれまた、今回のものとはまったく違う種類の作品なんですけど。
――ストーリーラインが、はっきりあるような?
バカリズム:そうですね。どうしてもやっぱり、笑いのほうになっちゃうんですけど、展開の仕方は、それぞれまた全然違うタイプの作品になると思います。
――なるほど。今は着実に、脚本の仕事に気持ちがシフトしている?
バカリズム:お話がいただけるのであれば、全然やりますというか、スケジュールの許す限りは、やっていきたいなと思っています。基本的には、お笑いをやりながらという感じではありますね。
――今回の『殺意の道程』を観て、バカリズムさんの映画をもっと観たいと思う人は、結構多いようにも思います。個人的には、今の気分みたいなものにピッタリの映画だったなって思っていて……あまり激しいものは、なんとなく心が受け付けないところがあって。まあ、この作品も、もちろん「復讐」の話であり、「殺人計画」の話ではあるんですけど、基本的には笑える、ハッピーエンドの話になっているじゃないですか。
バカリズム:そうですね。僕が書くものって、スカッとして終わるものがほとんどなので、実はほぼハッピーエンドなんです。あと、無駄に人を死なせたくないので、そのあたりは安心して観ていただけたらなと思います。
■公開情報
『劇場版 殺意の道程』
2021年2月5日(金)全国劇場公開&配信スタート
脚本:バカリズム
監督:住田崇
音楽:大間々昂
出演:バカリズム、井浦新、堀田真由、日野陽仁、飛鳥凛、河相我聞、佐久間由衣、鶴見辰吾
プロデューサー:高江洲義貴、大内登
配給:WOWOW
製作:「劇場版 殺意の道程」製作委員会
(c)2021「劇場版 殺意の道程」製作委員会
公式サイト:satsui-movie.jp