“読めない岩ちゃん”と再び対峙? 『名も無き世界のエンドロール』のコンゲームを楽しむ

『名も無き世界のエンドロール』の魅力を解説

 三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、EXILEのメンバーであり、俳優としても活躍する岩田剛典と、話題作への出演が絶えない新田真剣佑。

 既存の俳優のスケールにとどまらないふたりが初めて顔を合わせた映画『名も無き世界のエンドロール』が、1月29日に劇場公開を迎えた。さらには、映画のラストから半年後を描くスピンオフドラマ『Re:名も無き世界のエンドロール ~Half a year later~』も、同日からdTVで独占配信。本稿では、両作品それぞれの魅力とつながりを、ネタバレなしでご紹介する。

 2012年に「小説すばる新人賞」を受賞した同名小説(著:行成薫)を、『キサラギ』『ストロベリーナイト』『累‐かさね‐』で知られる佐藤祐市監督が映画化した本作。小学生のときからの無二の親友、キダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)。成長した彼らは、闇社会の交渉人と会社経営者に成り上がり、政治家令嬢でトップモデルのリサ(中村アン)へのプロポーズを計画する。しかしその裏では、彼らが長年練りに練った、真の計画も同時に進んでおり……。

 「ラスト20分の真実。この世界の終わりに、あなたは心奪われる――。」のキャッチコピー通り、クライマックスにこれまでの伏線がつながり、驚きの真実が明かされる構造になっている本作。その部分に最大の“花火”を持ってくるべく、序盤から中盤にかけては過去と現在が目まぐるしく交錯するトリッキーな構成と、観る者に違和感を抱かせるようなシーンをわざと点在させており、集中力を高めてヒントを見逃さないようにするのが、大きな楽しみのひとつ。

 小説や映画の作劇方法のひとつに「信頼できない語り手」というものがある。我々は基本的に「語り手は真実を語るもの」という前提を持ってしまいがちだが、そんなルールは本来敷かれていない。語り手や主人公が「何を隠しているのか」を探っていく、いわば「観客が能動的に参加する」のが近代的なサスペンスやミステリーの面白さのひとつでもあるように、映画『名も無き世界のエンドロール』も、キダとマコトの“本当の目的”は何か、常に頭を働かせて観ることを求められる。いわば、主人公たちとの知恵比べ(コンゲーム)が発生するのだ。

 たとえば、序盤の違和感は、自動車の整備工として働いていたキダとマコトの不可解な行動。マコトは、高級車の修理にやってきたリサに一目惚れしたのか、じっと見つめ、初対面にもかかわらず食事に誘う。にべもなく断られてしまうと、「何とか彼女と付き合いたい」「彼女にふさわしい男になりたい」と直後に職場を辞め、姿を消してしまうのだ。キダは彼の行方を追う過程で、裏社会の交渉人と知り合い、自分もその世界で働き始める。そうしてマコトと再会するのだが……。

 さらに、本作は小学生から20歳ころまでのキダとマコト、幼なじみのヨッチ(山田杏奈)の思い出がフラッシュバックする構造になっていて、いわゆる「順行」の物語になっていない。現在と過去を行き来するため、観客の脳内にはキダとマコトのデータが蓄積されていく一方で、彼らへの疑念はますます強まっていく。途中の出来事が意図的に抜かれており、散らばった過去を一本の線でつなごうとするのが容易ではないのだ。さらに、いま観ている情報自体も、ミスリードを誘っている可能性も捨てきれない。岩田の主演作『去年の冬、きみと別れ』も観客を惑わす仕掛けが随所に施してあったが、彼のファンは本作で再び、“読めない岩ちゃん“と対峙することになるわけだ。

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